北欧フィンランドは、父親の子と接する時間が母親より長い唯一の国だ。ライターの堀内都喜子さんは「フィンランドには『イクメン』という言葉はない。なぜならフィンランドの父親にとって、子育ては『手伝う』ものではなく、主体的に行うものだからだ」という――。(第3回)

※本稿は、堀内都喜子『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

ご家族ご一緒に屋外でのピクニック
写真=iStock.com/Paul Bradbury
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フィンランドの「父親休暇」

男性の家事・育児への参加を促すことも重要だ。フィンランドでも日本の産休にあたる母親休暇の終了後に、それとは別で育児のための「親休暇」を設けて、母親でも父親でも取得可能としている。だが、授乳の必要など様々な事情から取得者の9割以上は母親である。

そこで、父親だけが取得可能な最大約9週間の「父親休暇」が別個に設けられている(2022年秋以降変更)。これは2種類あり、①母親が休暇中でも取れるものと、②母親の復職後に取れるものがある。典型的な父親休暇取得のパターンは、①を出産直後に約3週間、②を母親が仕事復帰した後に他の休みとあわせて約2カ月利用する、というものだ。

フィンランドは里帰り出産の習慣がなく、出産時の入院期間も短い。出産後わずか1~2泊で帰宅するケースも多く、父親もいち早く自宅で赤ちゃんと向き合っていく。こうした事情から、赤ちゃんの世話だけでなく家事全般において男性の役割は大きい。

私の周囲の男性は、子どもが生まれるとすぐに上司に電話して「生まれたので、今日から3週間休みます!」と伝え、「おめでとう!」と周りから祝福されていた。もちろん、この時に初めて休みを申請したのではなく、妻の妊娠がわかった時点で上司と相談し、事前に周りと仕事の調整をしている。妊娠がわかってから予定日までは何カ月も準備期間があるので、父親休暇の取得には今やほぼ障害がない。

休暇を取っても職場で誰も文句を言う人はいない

妊婦健診や両親学級を通じても、早いうちから赤ちゃんの世話に慣れ、父親と子どもがコミュニケーションを取り、新しい家族の形や絆をつくることが推奨されている。

②の母親が職場復帰してから取れる父親休暇の取得率は、2016年の段階ではまだ45%とそれほど高くない。しかし、利用数は毎年確実に増加していて、取得した人は平均で約7週間ほど休んでいる。

教育レベルの高い家族は取得率がより高い。私の友人たちも何人かこの時期に休暇を取っているが、子どもの母親からは「職場復帰したばかりで体力的にも精神的にも大変な時期に、夫が家事や赤ちゃんの面倒を一手に引き受けてくれて助かった」「子どもにとっても父親がまだ自宅にいられてよかった」という声が聞かれる。

父親本人はどうかというと、「想像以上に大変でストレスがたまった。仕事をしている方が楽だと思った」という意見に続いて、「だからこそ、これまで1人で頑張ってきた妻を尊敬する気持ちが生まれた」「子どもの日々の成長を間近で見られてとても楽しかった」「子どもとの関係がより深くなった」という声も私の周りではよく聞かれる。

気になるのは、職場の上司の反応だろう。ある友人男性が2カ月の休みを申請した時は「長い人生の中で、子どもの成長はあっという間。ぜひそうした方がいい」と男性上司が言ってくれたそうだ。もちろん「上司が何と言おうと、これは親の権利。僕の権利として保障されているのだから、いずれにしても取ろうと思っていたけど」という友人もいた。