エンジニアが法律や経済を学べる環境をつくる

こうした不合理を正す一端を担えたらと、現在、僕が取り組んでいるのが千葉工業大学変革センターでの仕事です。

2019年まで所長を務めていたMITメディアラボは建築学部内の研究所なのですが、そこでもっとも重視していたのは、アート、サイエンス、デザイン、エンジニアを掛け合わせて考えることです。ハーバード大学法学部の学生たちと一緒になって、技術と法律の両面から人工知能の未来を考えるなど、いくつも刺激的な試みをしました。

マサチューセッツ工科大学(MIT)
写真=iStock.com/diegograndi
※写真はイメージです

千葉工業大学でも同じ発想で、エンジニアたちが法律や経済、美学なども合わせて学べる環境整備を進めているところです。いずれは千葉工業大学から、企業や国家でリーダーシップを発揮する人材が多く輩出されるようになれば、と願っています。

なぜホンダやソニーは日本を代表する企業になったか

本田技研工業創業者、本田宗一郎さんの有名な写真があります。バイクがまさに目の前を走っているときに、本田さんが地面に手をつけている。これは、エンジン音の異常を、創業者みずから全身で感じ取っている光景です。技術に明るく、現場任せにしないリーダーの姿です。

ソニーが戦後日本を牽引けんいんする革新的企業になったのも、創業者自身が技術者だったことと無関係ではありません。やはり技術をちゃんと理解している人たちが、リーダーシップをとることが重要です。

これからの時代は特にそうだと思うのですが、いまは国も企業も、何でもタスク化して解決に注力する「ソリューショニズム」に陥ってしまっている。そうではない真の創造性には「そもそも、なぜ?」という問いが不可欠です。

その点、web3で新しいことにチャレンジしている若い人たちは、「そもそも、なぜいまこういう状況なんだっけ?」と自問し、新しい技術を用いてコンセプトを立てているように見えます。技術に対する深い理解があるから、「そもそも論」からはじめて、新しい価値を生み出すことができるわけです。