顧客とのコミュニケーションの深さを決めるのは、面談時間の長さや頻度だけではありません。名刺交換をしたら、まず相手の部署名を確認し、どんな業務を担当しているのかを聞き出すだけでもいいのです。

「技術部第3課とありますが、何をされているのですか?」と聞けば、相手からも「光学レンズの開発をしている部署です」といった具体的な返事が返ってくるでしょう。そうすれば、担当業務と関連した自社の強み、自身の強みを説明して自己開示を行うことができます。これが第一段階になります。

次に行うのは顧客へのヒアリングです。業界ではいま何が主流なのか、そしてその企業ではどのような展開を考えているのか。そこで必要になるものは何か。その中で、自社の業務や自己の能力とのすり合わせを行い、何が提案できるかという結論につなげていきます。

ここで「相手へのヒアリング」という段階を軽んじて、自社の説明と提案だけに力を入れる営業マンもまま見受けられますが、顧客に一方的な印象を与えるのでやめたほうがいいでしょう。また、実際の提案を待つまでもなく、「自己開示」「ヒアリング」の段階で、すでに相手はこちらの力量を判断しているものです。その点は心して面談に臨みましょう。

さて、次に提案に入りますが、その場でソリューションを提示するほかに、次のミーティングで行うことを相手に伝え、タイミングを逃さずにクロージングに持っていく方法もあります。「次は当社の工場へご案内します」「サンプルをお持ちします」「企画書をお見せします」と方法はさまざまですが、細かく具体的に決めておくことが重要です。

また先方担当者の上司や部下、関連部門の責任者など、同席してほしい人物がいれば同席を依頼し、訪問日程の候補をもらって、自社からもキーマンを連れて行きます。その2度目の訪問までに必要に応じて客先と連絡を取りながら準備しておけば、あとはすんなりと仕事が流れ出すでしょう。

このように顧客への深い理解を基に、売れる仕掛けを考えて、収獲の喜びを顧客と分かち合う。そんな営業の醍醐味をぜひ味わってほしいと思います。

(構成=石田純子 撮影=宇佐見利明)