発達障害に悩む人が増えたのは、時代が変化したから

だが、このような特徴が強く出てしまったり、活かせない環境であったりすると、対人関係のトラブルや自尊心の喪失などが起こり、つらい思いをしてしまう。ときには就学や就労が困難になったり、うつ病を発症したりすることもある。周りの理解が必要なのが大前提だが、当人が生きやすくなるための心理的な支援も重要だ。

発達障害は、なぜ、増えてきたのだろうか。

病名が多くの人に認知され、相談に来る人が増えたことが第一に考えられるが、河合氏は、興味深い別の理由を教えてくれた。

「発達障害といってもいろいろですが、その多くは『主体』が弱いという特徴を持っています。発達障害や発達障害的な特徴に悩む人が増えてきたのは、時代が変化したからではないでしょうか。終身雇用が当たり前で外から決められた『枠』がしっかりあった時代は、主体性が欠けていても問題にはなりませんでした。コミュニティもしっかり存在して、その中での役割が与えられていたからです。

誰と結婚して、どの仕事をするかが、コミュニティの中で必然的に決まっていた。そうなると、主体性なんてなくても困らないわけです。しかし、現代は自然発生的なコミュニティが減って、自分で判断する場面が多くなりました。個人の自由度が増してきた現代だからこそ、主体性の問題があぶり出されていると考えています」

日本の通勤風景
写真=iStock.com/paprikaworks
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「強固な主体性」が必要になってしまった

人間は自由の刑に処せられていると述べたのは20世紀の哲学者サルトルだが、自由はある種の人々にとって大きな重荷なのである。

自然発生的なコミュニティとは、ご近所さんの輪のようなゆるいつながりのことだ。家族や仕事仲間のような緊密で必然的な関係とは対照的なものである。人はつながりがないと生きていくことはできない。ゆるいつながりが消滅すれば、必然的なつながりにしがみつくしかない。そうなると、必然的なつながりはさらに緊密さを増していく。この現象を河合氏は、「カルト化」と表現した。

「現代は、家族がカルト化しています。昔なら、おかしな家族がいたら近所の人が『あの家はどうなってるの?』と首を突っ込んでいましたし、子どもも近所の祖父母の家に遊びに行ったりなど、逃げ場がありました。ですが、カルト化した家族には逃げ場がない。歪みはどんどん濃縮されていきます」

一方で、インターネットの発展により、つながろうと思えばいつでもどこへでもつながる手段が生まれた。無数の選択肢と、カルト化したコミュニティ。その両極端のつながりに挟まれた現代では、より強固な主体性が必要になってしまったのだ。