「円安はGDPにプラス」マスコミが無視する計算結果
円安が速すぎるペースで進むことには問題があるが、全体として円安は日本経済にとってプラスである、という評価は黒田総裁に限った見解ではない。
OECD(経済協力開発機構)が2010年に公開したワーキングペーパーや、内閣府が2018年に公開している「短期日本経済マクロ計量モデルの構造と乗数分析」のなかでも、円が対ドルで減価することが、実質GDPに対してプラスに寄与するという計算結果が提示されている。
つまり、日本経済にとって円安がメリットをもたらす面があるのも事実なのである。
それでは、なぜ「悪い円安論」ばかり叫ばれるのだろうか。
そもそも物事には得てしてメリットとデメリットの両面があり、片方だけに焦点を当てて議論をするのは危険である。
円安のメリットとして挙げられるのは、
①価格競争力が上がり輸出企業の競争力が向上すること、
②海外の投資先から得られる利子や配当が円換算した際に増価すること、
③訪日外国人観光客が増える可能性
といった点が代表的なところだろう。
一方、円安のデメリットとして挙げられるのは、輸入価格が上昇するという点だ。
メリットとデメリットの両面があるなかで、どちらに焦点が当たるかはその時の経済環境が大きく影響する。
2011年前後の円高局面において、多くの輸出企業が海外に生産拠点を移しており、従来ほど円安メリットを享受できなくなっている。
また、コロナ対策で入国制限があるため、円安になっても訪日外国人観光客が入ってこない。
一方で、世界的なエネルギー、食料価格の上昇局面がおとずれ、海外からの輸入に大きく依存する日本では、円安のデメリットが大きく見える。
といったことが「悪い円安論」が声高に主張される理由だろう。
また、多くの日本人が勤務する中小零細企業にとって、海外から輸入することはあっても、海外に投資するケースが少ないので、円安のデメリットを体感する人が多いということも一因かもしれない。