「携帯料金引き下げ効果」が剝がれれば「悪い円安論」が加速

「悪い円安論」の背景に物価上昇があるとすれば、本稿執筆時には未発表だが5月20日に発表される4月分の消費者物価指数の結果によって、「悪い円安論」がさらに加速していくだろう。

ちなみに、4月22日に発表された2022年3月分の消費者物価指数は「総合」が前年同月比+1.2%、「生鮮食品を除く総合」が同+0.8%、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」が同-0.7%となっている。

欧米が同+7%、+8%という歴史的な物価高に見舞われているなか、この数字だけ見れば、日本の物価は依然として低い。「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」に至ってはむしろマイナスである。

ただ、この数字には少し注意が必要である。

菅前政権が携帯電話の通信料金を引き下げた影響で、全体が1.42ポイント押し下げられているからだ。この通信料金の引き下げは、昨年の4月から段階的に行われたので、5月20日に発表される2022年4月分の消費者物価指数以降では、この特殊要因の効果が剝がれる。そのため、一気に物価が上昇したように見えるはずだ。

それを受けて、「悪い円安論」は5月20日以降、さらに加速するかもしれない。

なかなか解消されない「約17兆円のデフレギャップ」

今回の円安の背景として、日本と米国の金利差の拡大が挙げられている。為替自体は金利差だけで動くわけではなく、多くの要因を受けて日々レートが動いているわけだが、大きなトレンドを金利差で語ることは可能だ。

【図表1】日米金利差とドル円相場の推移
出所=日本銀行などのデータを基に株式会社マネネが作成

5月20日に発表される消費者物価指数の結果によっては、「日本でもインフレが!」と、メディアが一斉に騒ぎ出すことも考えられる。

その際、インフレの理由として円安を挙げ、「日銀はいますぐ金融緩和をやめ、金利を引き上げて米国との金利差を縮小せよ」という声が上がるだろう。

しかし、そうした声には、日本と米国の経済環境は全く違うという視点が欠けていると言わざるを得ない。

4月12日に内閣府が発表した2021年10~12月期GDPギャップによると、日本では約17兆円のデフレギャップが存在している。消費増税を実施した2019年10~12月期から、実に9四半期連続のマイナスだ。

このような経済環境下において、金利差だけに着目し、金融政策を欧米追従で変えることほど、危険なことはないだろう。