「悪い円安論」や「日銀批判」が取り沙汰されるが…
4月27、28日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合で大規模な金融緩和の維持が決まった。その第一報が流れたあとに円安が進行し、外国為替市場では一時約20年ぶりの円安水準となる1ドル=131円台を記録した。
2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻直後のドル円相場がドル=115円台だったことを考えれば、今回の円安進行が異常なほど速いペースだったことが分かるだろう。
現在、このような状況下で「悪い円安論」や「日銀批判」が報じられる機会が増えている。ただ実際のところ、足元の円安についてどのように評価すべきなのだろうか。
1ドル130円という「水準」だけを見てはならない
金融政策決定会合の結果を受けて円安が進行したように報じられている。だが、今回の会合において日本銀行が金融緩和を維持するのは誰もが想定していた通りの結果だ。今回、まさか利上げを決断すると予想していた人はほとんどいなかっただろう。市場は日銀の対応を織り込み済みだったはずだ。
想定通りの結果だったにもかかわらず、なぜ円安が進行したのか。無理やり理由付けするならば、今回決定した政策内容に、連続指値オペ運用の明確化が盛り込まれており、日銀が円安を容認していると受け止められたから、と考えられるだろう。
実際、28日の金融政策決定会合後の記者会見では、まさに同様の指摘が記者から黒田総裁に発せられていた。
しかし、黒田総裁は、以下のように述べて一蹴している。
「金融資本市場の一部で、このオペ実施の有無から日本銀行の政策スタンスを推し量ろうとする動きもみられていたわけですけれども、そうした憶測を払拭して、日本銀行の従来からのスタンスを明確にすることが、市場の不安定性を減じることにつながると考えて行ったわけです」(出所:日本銀行「総裁記者会見要旨」2022年5月2日開示)
2015年6月10日に黒田総裁が国会で円安牽制と受け止められる発言をしたことを受けて、1ドル=125円が「黒田ライン」と呼ばれることがある。ただ、黒田ラインから5円以上も円安が進んだ現時点でも、日本経済にとって円安はメリットの方が大きいかという質問に、黒田総裁は以下のように回答している。
「全体として円安がプラスという評価を変えたわけではありませんが、過度に急激な変動は、今申し上げたように、不確実性の高まりを通じて、マイナスに作用することも考慮する必要があると考えています」(出所:日本銀行「総裁記者会見要旨」2022年5月2日開示)
この黒田総裁の発言は重要だ。ドル円相場が1ドル=130円などの節目を通過するたびに報道が過熱するが、そうした「水準」だけをみて騒ぐのではなく、円安進行のペースが速すぎることを問題視すべきなのだ。