長崎市ではコロナ禍以前から観光客数の減少が続いている。一方で、駅前には外資系ホテルや大型コンベンション複合施設が誕生し、サッカースタジアムの開業も控えている。今、長崎市で何が起きているのか。金融アナリストの高橋克英さんが解説する――。

世界遺産は豊富だが、観光客数は減少傾向

長崎県の県庁所在地である長崎市は、日本が鎖国をしていた江戸時代でも出島を通じてオランダや中国の影響を受けた独特の文化を発展させてきた。大きな天然港があり、戦前から造船業が盛んであり、港を取り囲む丘の斜面に建物が立ち並ぶ風光明媚めいびな港町だ。四方を山と海に囲まれ平地が少なく坂が多い長崎市は、大型商業施設や車社会には不向きであり、結果的に路面電車などの公共交通と地元の商店街などが残り、コンパクトシティが実現している。

長崎湾の眺め
写真=iStock.com/SeanPavonePhoto
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長崎市は日本有数の観光都市として、大浦天主堂などの「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」と軍艦島などの「明治日本の産業革命遺産」という、2つの世界遺産を有しており、グラバー園、出島、長崎原爆資料館や平和公園、眼鏡橋、中華街などがコンパクトにまとまり路面電車や徒歩で回ることができるのも強みといえよう。

カステラや長崎ちゃんぽん、トルコライスなど食文化も多彩だ。稲佐山からの夜景は、モナコ、上海とともに世界新三大夜景と称されるほど美しい。

読者の方々も修学旅行や、個人での旅行で一度は訪れたことがある方も多いのではないだろうか。一方で、2度3度と訪れたことがあるかというと、観光客もリピーターが少なく、買い物などでわざわざ訪れるような街でもなさそうだ。

実際、長崎市への観光客数は、2017年の707万人をピークにコロナショックの以前から減少傾向が続いており、足元では256万人(2020年)にまで落ち込んでいる(令和2年長崎市観光統計【確報版】)。

造船業は縮小、人口も減り続けている

地元基幹産業である造船業の頂点に立つ三菱重工長崎造船所は、戦艦武蔵を建造したことでも有名であり、三菱重工業の主力工場・造船所の1つだ。長崎造船所のうち、ジャイアント・カンチレバークレーン、第三船渠などが世界遺産となっている。

しかし、2021年3月に三菱重工業は、造船の主力拠点である香焼工場を大島造船所に譲渡すると発表するなど、造船業は中国・韓国との価格競争などもあり縮小傾向にあり、地元の雇用や下請け企業の業績などにも悪影響を及ぼしている。

2021年の住民基本台帳人口移動報告(総務省)によると、長崎市は日本人の転出者数が転入者数を上回る「転出超過」が2194人と深刻だ。特に、20代が971人と全体の半数近くを占めており、職を求めて若者が市外へ流出しているとみられる。

結果として、長崎市の人口は、40万9118人(2020年10月1日)と、5年前の42万9508人(2015年10月1日)と比べて約5%、2万人以上も減少しているのだ(長崎市「国勢調査結果に基づく年齢別・男女別推計人口」)。