「これまで、動物の声に個体差があるとか、感情を表現していると調べた人はいましたが、そこに人間の言葉と似たような能力が隠されているかどうかは、誰も調べてきませんでした。動物言語学という学術分野を作ることで、イルカは? サルは? とほかの動物に広がりが生まれてほしいんです。言葉を持っている人間だけが特別な存在というのはおかしいと思うから」

日本発で、新しい学問のジャンルが生まれるかもしれない。その学問によって、ドラえもんのひみつ道具「ほんやくコンニャク」を実現するような、種を越えたコミュニケーションの可能性も拓ける。人類の歴史に一石を投じるような研究を進める鈴木は、「小さい時から、やってることはぜんぜん変わらないですね」と笑った――。

京都大学白眉(はくび)センター特定助教の鈴木俊貴さん
筆者撮影
京都大学白眉(はくび)センター特定助教の鈴木俊貴さん

「それなら、図鑑を書き直せば?」今も忘れない母親の言葉

1983年、東京都の練馬区で生まれた鈴木の少年時代は、生き物の思い出であふれている。身近で捕獲できるバッタなどの昆虫、カエル、トカゲ、カタツムリなどのほか、魚やカニなど20種類ほどの生き物を常に自宅で飼育していた。

「今思うと、親がよく許してくれたなと思うんですが、とにかくなんでも飼っていました。でるのとは違って、とにかく彼らの世界を知りたかったので、ずっと観察していましたね」

幼少期から生き物に強い関心を抱く鈴木を、両親は微笑ほほえましく思っていたのだろう。4、5歳の時、家族で茨城に引っ越すのだが、後に鈴木が理由を尋ねたところ、「俊貴を自然のなかで育てたかったから」と明かされたそう。父親はそこから片道2時間かけて、東京に通勤した。

その頃に母親から言われたことを、鈴木は今も忘れていない。当時、飼育している生き物の様子と図鑑に書いてあることを照らし合わせ、その性質や特性を確認するのが日常だった。

鳥を観察する鈴木さん
筆者撮影
鳥を観察する鈴木さん

ある日、家の外でカブトムシがジョロウグモの巣に引っ掛かり、食べられているところを見つけた。鈴木少年は、図鑑に「カブトムシは森の王者で最強だと書いてあったのに!」と目を疑った。帰宅した鈴木少年は母親にその様子を話し、「この図鑑に書いてあることは、間違ってる」と訴えた。すると、母親はこう言った。

「それなら、図鑑を書き直せば?」

この日以来、鈴木は自分が観察した内容を図鑑に書き記すようになった。書き込みで埋まったその図鑑は、今でも実家で保管されている。

「図鑑って正しいと思っちゃうでしょ。でも間違っていることもあるし、自分の目で見たものが正しいんだっていうのをその時に学んだんです。でも、母はもう覚えてないって(笑)」