仮に、提案できたとしても、多くの場合はユーザー企業側の現場の猛反発に直面することは必至でしょう。「現状、うまく機能しているのに手をつける必要があるのか」「業務フローを変えると再教育が大変だ」「仕事がなくなってしまう。配置転換はごめんだ」といった具合に、です。

そうするとITベンダーとしては顧客を失うわけにはいかないので、ユーザー企業の要求どおりにシステムを構築します。すると、全体最適がなされないまま旧態依然とした非効率な組織構成や業務フローが維持され、デジタル化は進んだものの部分最適化された状態にとどまり、前述の本質的なDX推進からはほど遠い状況になりかねません。

依頼された側も「知見がないから」と尻込みする

実際問題、私もとあるシステムインテグレーターと巨大な製造業の課題解決を持ちかけられた際に、製造業の領域が得意なはずのそのインテグレーターは話を安易に断ろうとしていました。その顧客の製造に関する業務ナレッジがないため、課題解決につながる提案は自分たちでは難しいと感じたのでしょう。「上司を通じてお断りしようと思う」と伝えてきました。

とは言え、そのインテグレーターにとっては大きなチャンスであるとともに、その顧客企業の取り組みとしても大きなチャレンジでした。そこで、当該業務に多少の土地勘があったことから私がいったん巻き取り、仮説で課題を書き出して先方企業と討議し、先方との課題認識合意を経て提案機会を獲得した、という経験があります。

社内のIT人材で「聖域なき改革」を実行する方法

こうした事例に見ることができる日本のIT化事情が抱える構造的な問題もあり、DXがブームになって以来、「内製化」というキーワードにこれまで以上の関心が集まるようになりました。DX推進を担当するリーダーを置き、社内のIT人材でデジタル化を進め、組織形態や業務フローの改善が必要になれば、リーダーの下で聖域なき改革を実行しようというわけです。

内製化にも幾つかのパターンがあり、業種業態によっても取り組みのレベルは大きく異なります。プログラムが書ける人材を抱え込むパターンは、ECなどのオンラインビジネスも内包する小売・流通や金融などの企業が多かったり、市場にはあまり出てこないIoTのフルスタックエンジニア(デバイス側からクラウド側までの複数のレイヤーをまたいだ知識を持つエンジニア)を抱える製造業もいたりします。

一方、プログラムまで書けなくてもIT導入が担当できるレベルの人材が要求される現場施工業界などもあります。

弊社の例では、私たち自身が企業のDX推進室をいったん丸ごと請け負って、その後、DX人材の採用支援や社内DX人材の育成を行ないながら徐々に内製化を進めていくという現実的なアプローチを取っているケースも複数あります。