政府は親の年収が380万円~600万円の家庭を対象とした給付型奨学金の拡充を検討している。米国公認会計士の午堂登紀雄さんは「日本の未来のための投資なのだから、親の年収制限を設けるのはおかしい。本人の意欲と成績を基準にすべきだ」という――。
トップコインスタック上の卒業帽子
写真=iStock.com/Khongtham
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世帯年収380万から600万円の家庭への支援を検討

私自身、高校と大学を旧日本育英会の奨学金を利用して進学しました。

卒業後はすぐに就職が決まらなかったため返済猶予制度を利用して返済を遅らせてもらいましたが、15年かけて完済しました。

奨学金のおかげで東京に出てくることができたので、奨学金には感謝しています。

そういった経緯があり、奨学金に関するニュースには敏感なのですが、政府の「教育未来創造会議」(議長=岸田首相)が5月にまとめるという提言の報道内容に強い違和感を覚えました。

学生支援機構が提供している公的な奨学金は現在、住民税非課税か年収の目安が約380万円未満の世帯が対象の給付型と、約1100万円以下の世帯が対象の貸与型があります(実際は年収ではなく所得によって決まりますが、わかりやすい目安として年収で表記しています)。

報道ではこの制度を拡充し、たとえば学費が高額になりがちな理工農学部系の学生や、子どもが3人以上の多子世帯を対象とし、世帯年収の目安が380万~600万円の家庭への支援を新設するそうです。

また、国が大学などの授業料を肩代わりし、卒業後に一定の年収を超えたら所得に応じた額を返済する「出世払い」方式も検討されているようです。

子どもの教育投資に親の所得は関係ない

これは中間層への「媚び」に感じます。

以前の記事(「児童手当無し、高校無償化も対象外」高所得者への“子育て罰ゲーム”が少子化を加速する)でも述べたことですが、将来の日本を担う子どもたちへの投資において、親の所得によって制限を設けることはナンセンスであると考えています。

未来の宝を育てる国家戦略に、親の経済力など関係ないだろうと。

そして返済不要の給付型の奨学金は、成績優秀者に限定した方がいい。

その理由は、国の奨学金の原資は国民の税金であり、ならば費用対効果がより大きいと思われる対象に絞るのが筋だと考えるからです。

むろん福祉などのように見返りを期待するものではなく費用対効果という考えがそぐわない分野もありますが、教育は国家の未来への投資ですから、リターンの見込める対象に投下すべきでしょう。

その指標となるのはやはり成績です。

ペーパーテストかAO入試かなど選抜方法が違ったとしても、現在優秀であることは、学問や探求に熱心であり今後の学習でも大きく伸びる素地があるという一定の担保になるからです。学校独自の給付型奨学金や海外の大学のスカラシップも、基本的に成績優秀な人を対象としています。

もちろん入試時点に限らず大学で一生懸命勉強して成績が上がったならば、給付対象にすればいいのです。