文化批評に触れていない読者にも届けていきたい
この20年間はシリコンバレー的な価値観、この場合は情報産業の牽引するグローバルな市場に、イノベイティブな商品やサービスを透過することで、ローカルな国家に縛られずに世界中の人々の社会と生活を変える、という思考が支配的だったのだけれど、2016年あたりから、つまりブレグジットとトランプ大統領の誕生あたりから、目に見えてそのアレルギー反応が出てきて、ちょっとした再政治化のフェイズに入っている、ということだと思うのですが、そこで、東京のローカルな、比喩的に言えば六本木や中央沿線の「業界」のモードを基準に状況を判断しても、仕方がないと思うんですよ。
僕が猪子さんやけんすうと親しいこととか、落合陽一さんの本を作ったりしたことが、昔の仕事仲間から、宇野さんは変わったと、少し非難じみたニュアンスで言われたこともあるのだけれど、僕からしてみると、その人たちが、彼らをなぜか敵なのだと、勝手に思いこんでしまってるだけじゃないかなと思いますね。
僕は、書き手としては文化批評がやはり自分の仕事の中心にあると思っています。ただ、僕らの仕事は、まだ潜在的な読者にしっかり届いていないと感じています。ただ、物事を抽象的にとらえたり、目に見えない世界にリスペクトを持ったりして思考する能力があるのに、批評や思想の世界に触れていない人も多くて、そちらに言葉を届けたいという思いは明確にありました。そういった意味では、これまで視野に入っていなかった読者を視野に入れはじめたのは間違いないです。
サプリを摂取するような消費の仕方は貧しい
——読者層に広がりが出ているように思います。
【宇野】「総合誌」を読みたい人は潜在的に多いと考えています。シリコンバレーのイデオロギーを内面化した自己啓発的なアジテーションには与したくないし、その逆張りのテクノフォビア的な人文系のヒーリングにも同調したくない、と考えている現役世代の中にまだまだいるはずで、そこに伸び代があるのではないかと期待しています。
『モノノメ』は政治、ビジネス、テック、サブカルチャー、ライフスタイルも扱う総合誌です。僕はどの業界にも属していないから、個別の問題にフラットに独自のアプローチをしています。その自由さを愛してくれる人たちが読んでくれたら嬉しいですね。