物事でつながる人間関係のほうが広く、強い
——飲み会をやめると、人とのつながりが希薄になるのではありませんか。
【宇野】それ、よく聞かれるのだけど人とのつながりそのものを断ったわけではないんです。いわゆる「飲みニケーション」的な、一緒に酔っ払って、無防備な姿を晒して、メンバーシップを確認するという儀式にはもう参加しないと決めただけですからね。あれは、敵と味方を区別して、ここにいる俺たちは味方だと安心するためのもので、僕はもうそういうのはウンザリだと思った。
でも、人間同士のかかわりってそれだけじゃないと思うんですよ。たとえば「ものごと」を通して人間とつながるというやり方もあるはずです。僕は飲み会をやめた時期から、研究会や勉強会のようなものをよく主催していて、そこに集まってきた人たちとのつながりは大切にしています。打ち上げの飲み会は基本的にやらないですが、それでも、十分な信頼関係を築いてこれたと思っています。
あとはやっぱり仕事ですね。ちょっと気になる人にはとりあえず一回、かんたんなものでいいので仕事をお願いする。そしてそのときその人の「ものごと」への取り組みをしっかり食らいついていって、把握する。そしてその人の仕事に対して、しっかりとフィードバックすると、その人へのリスペクトを地味に、でもしっかりと伝えることができる。こうして出来た信頼関係って、時間はかかるけれど僕は「飲み会」で確認されたメンバーシップよりも、長期的には強固なものになるし、創造的なコミュニケーションも生まれやすいと実感しています。
要は、人間同士が直接つながるのではなくて、物事を通して人とつながるということですね。この例でいうと、相手の仕事や研究をきちんと見るということ。その人は誰と仲がいいという話はどうでもよくて、その人がどんな本を書いて、どんな仕事をしてきたのかに興味がある。そうした姿勢を喜んでくれて、「一緒に仕事をしましょう」といえば気持ち良く応えてくれる人もいます。
『モノノメ #2』では、「ムジナの庭」という就労支援施設を取材しました。この施設は、人と人を直接対話させるのではなくて、手仕事を通して結果的に人同士のコミュニケーションが発生させるアプローチをとっています。これは僕が考えていることに近い。人間が直接つながると、裏切る/裏切らない、同じ物語を信じる/信じないといったところに収斂されがちです。それよりも、物事に対するリスペクトや愛情でつながった関係のほうが強固で射程が長いと思っています。