「何でもいいから宇野さんと仕事したい」はたいてい失敗する
——相手の仕事に対して、忖度なしに評価を伝えるのは勇気が要りますね。
【宇野】そうですね。気を悪くされる怖さはありますよ。でも、それを恐れて「なんかいいですね」とふわっとしたことを言っても響かないじゃないですか。パン屋さんに「おいしいですね」と言っても、それってまあ、あたり前のことですよね。自分の作るパンがおいしいと思ってるから、そもそもパン屋をやってる人がほとんどだと思うので。具体的に「このチョココロネは他の店とここが違う」と言わないと、相手の仕事を見ていることは伝わらないでしょう。それで外してしまったら仕方がない。自分の能力が足りなかったのだから、また次に頑張ろうと考えるだけです。
——仕事を受けるときも同じスタンスですか。
【宇野】「宇野さんと何でもいいから仕事したかったんです」と言われるとすごくうれしいですよ。でも、それでうまくいった試しはないですね。僕の仕事についてどう評価しているのか言語化できていないと、仕事に発展する可能性はゼロに近いです。
だから、いただいた企画書はじっくり見るようにしています。「サブカルチャーから現代社会を斬ってください」みたいなことがざっくり書いてあるだけだと、この人は信頼できないと判断します。具体性がともなっていないと、いい仕事はできないですから。
起業家との仕事も増えてきているが…
——宇野さんの専門はサブカルチャー批評ですが、この数年、起業家との人脈を活かした仕事も目立ちます。『モノノメ #2』の対談集にはJX通信社の米重克洋さんが登場しています。ほかにも、アルのけんすう(古川健介)さんやチームラボの猪子寿之さん、DMMの亀山敬司さんなどとも親しいですよね。そうした人脈のある批評家はめずらしいと思います。
【宇野】うーん、猪子さんやけんすうさんは古い友人ですが、逆に言うと個人的に親しいのはこの2人くらいで、あとは単に仕事に興味のある人たちに取材をしていったらこうなった、というところが大きいのだけど、そもそも今の日本の「業界」には、こういうスタンスで活動していると逆に目立つのかもしれないですね。何が問題が起きるたびに、リトマス試験紙的に所属している業界や党派がリンチしている人に、自分も石を投げてポジションを獲得している人も多いですから。
僕は情報技術について中立的な立場から考えていることが大きいですね。僕はとりあえずイノベーション、みたいな人は話が、というかそもそも世界観が隔たりすぎていて、まともなコミュニケーションならないし、自分が使ってきた武器があまり使えないからといってあんなものはロクでもないと毒つきたくなる、古い業界の人のこともつまらない人だなとしか思えない。