ただし、最初から全員に響くような「万能薬」に見えるテクニックを実践してみても、毒にも薬にもなりません。あくまで「一人ひとりに寄り添った先に、多くの人の共感を呼ぶアドバイスが見つかる」というのが正しい順番です。

どんなに人数が多い組織でも、一人ひとりに寄り添うことからすべてが始まります。

「全体」をどうにかしようと思っても、「個」は変わりません。しかし一人ひとりの「個」に寄り添い、悩みに向き合い続ければ、やがて「全体」が変わっていくのです。

悩み相談の場は「自分の過去の栄光を披露する場」ではない

基本姿勢②自分の言葉ではなく、相手の悩みを主役にする

続いて2つ目の基本姿勢は、「自分の言葉ではなく、相手の悩みを主役にする」ということです。悩んでいる人を前にすると、多くの方は「自分はどんな接し方をすればいいのか」「自分はどんな言葉をかけてあげればいいのか」と考えてしまいがちです。

しかしそれを考える前に、「相手が何に困っているのか」「○○さんが悩んでいる理由は何か」に興味を持つことのほうが、はるかに重要です。

人の悩みに向き合う際は、何よりもまず「相手の悩みを主役にして考えること」が大切なのです。ですが、悩み相談の現場において、残念ながら多くの方が自分の言葉や話を主役にしてしまっています。

少し厳しい言い方になりますが……悩み相談の場を「自分の過去の栄光を披露する場」だと勘違いしている人も多いのではないでしょうか。

男性と女性のシルエット
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

主役はあくまでも「相手の悩み」

もちろん、相手の悩みを主役にした上であれば、自分の過去の体験談を話すことを否定しません。それが相手の助けになることもたくさんあります。

でも相手の悩みに興味や関心を持たず、相手の悩みを深掘りすることもなく、すぐに「俺がお前と同じような状況だった時にはこのように乗り越えた」といった過去の自慢話をしてくる……。そんな厄介な「悩み相談に乗ると見せかけて、自分の自慢話をしてくる人」があなたの周りにもいませんか?

悩み相談に乗っている人が、相手の悩みよりも、自分の言葉を考え始めた瞬間、主役はその人になってしまいます。人の悩み相談の場を横取りして、自分の過去の栄光話に酔いしれる。居酒屋などでよく見る光景ではないでしょうか(笑)。

しかし、悩み相談の場における主役はあくまでも相手の悩みであるべきです。

仮に同じような悩みで苦しんだ経験があなたにあったとしても、あなたと相手はまったく別の人間。価値観も考え方も違えば、生きてきた環境も現在置かれている状況も異なります。あなたが経験した成功や失敗は、目の前の相談者とはまったく違う世界の話なのです。