「個」をほったらかして「全体」を良くすることはできない

「部下」や「若手」や「ベテラン」といった総称ではなく、あなたの目の前にいる「山田さん」「大塚さん」といった「個」に興味や関心を持たなければ、その人の悩みに本当の意味で向き合うことなどできないのです。

対して、本気で人の悩みに向き合おうとしている人は、一人ひとりの「個」に寄り添い、「個」の悩みに向き合おうと努力しています。そういう方が私のもとへ相談にいらっしゃると、たとえば次のような話をされます。その人の部下の方の名前を、仮に「宮川さん」としてご紹介しましょう。

「私の部下に宮川さんという人がいます。宮川さんは○○な人で△△なところがあり、□□な状況では能力を発揮してくれるのですが、××な状況に陥ると、あるべき論に固執してしまい、本来の力を発揮できなくなってしまいます」
「そんな宮川さんに対し、先日、◎◎とアドバイスをしたところ、●●との反応が返ってきてしまい、少し関係がこじれてしまいました」
「こういった場合、私はどのようなアドバイスをするべきだったのでしょうか? また、一度こじれてしまった宮川さんとの関係を回復するために、まず私は何をするべきでしょうか?」

このように、一人ひとりの「個」に向き合っている人は、相談内容がとても具体的で、相談の仕方もまるで違うのです。

しかしリーダーという立場にいる方々の中には、「個」をほったらかしにして、「全体」をなんとか効率的に動かすやり方はないかと、小手先のテクニックばかり探している方が多いのが実情です。

議論する日本のビジネスマングループ
写真=iStock.com/Drazen_
※写真はイメージです

最初から「万能薬」のようなアドバイスはできない

もしかしたら、これまでの話を読んで「こっちも忙しいんだから、そこまで真面目に一人ひとりに寄り添う時間なんて取れないよ」「もっと皆のモチベーションを一気に上げることができるようなアドバイスをくれないかな」と思われた人もいるかもしれません。

はっきり申し上げましょう。そんなアドバイスなどありません。

「万人の心に火を灯す方法」や「万人に通用するモチベーションアップ法」など存在しないのです。そのような、最大公約数的に万人に刺さるテクニックを探しているうちは、人の悩みに向き合うことなどできません。

あなたも誰かに悩みを相談する時は、万人ではなく、「あなた」に寄り添い、「あなた」の悩みに全力で向き合ってほしいと思うはずです。

もちろん、一人ひとりと本気で向き合い続けていると、時としてそれぞれの悩みに共通項が見えてきたり、「これって多くの人が悩んでいることなんだな」などと発見できたりすることもあります。