岸田文雄首相はさまざまな場面で「聞く力」をアピールしている。だが、エコノミストのエミン・ユルマズさんは「経済政策では投資を促す一方、配当金の税率を引き上げるなど矛盾がとても多い。株式市場が岸田首相を嫌っているのは、日経平均に如実に表れている」という――。

※本稿は、エミン・ユルマズ『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)の一部を再編集したものです。

岸田文雄首相
写真=時事通信フォト
2021年11月26日、首相官邸で開かれた、新しい資本主義実現会議で発言する岸田文雄首相。

なぜ日本はマザーズ株で一人負けしたのか

2022年に入ってから日本の企業業績はさほど悪くはないのだが、足元の株価が年初からまったく冴えない。

なぜなのか?

一つには2022年3月期決算は悪くはないが、来期(2023年3月期)は鈍化する可能性が高い。2021年3月期決算が悪かったことから、2022年3月期決算は大きく反発して、来期は鈍化する。逆V字のような格好になる。それがいま起きている。

特に中小型株の下げ方がかなりエグい。マザーズ株がひどい有様となっている。2021年のIPO社数125社のうちマザーズが93社と過去最高で、“需給”の悪化が影響したのに加えて、マザーズは基本的に先行指数なので、何かまだ市場に見えていないリスクを織り込んでいる可能性が大きい。

そのリスクは二つあって、一つは地政学的リスク。もう一つはFRBあるいは世界の主要中央銀行のタカ派、つまり引き締めへのシフトを織り込んだマザーズが先に下げているのではないか、ということだ。

その他マザーズ一人負けの要因は、世界的な金融緩和で時価総額の大きい順に買われる大型株優位の相場の影響。2022年4月4日に予定される東京証券取引所の「市場区分見直し」の影響などもあるのだろう。

逆に言えば、何かショッキングなことが起きたとき、真っ先に反応して上がるのがマザーズなのだと思う。コロナショックのときがそうであった。他の主要な指数が崩れるなか、マザーズは底を打って急上昇に転じた。

日本はすでにインフレになっている

このところ日本株の動きが冴えないし、チャートの形が悪い。経験上、このような場合には、企業業績やコメントには見えない何か悪い要素を市場が検知し、株価に織り込んでいる場合が多い。

思うに、すでに日本はインフレになっているということだろう。前の菅政権による携帯料金の値下げがなければ、日本のインフレ率は1.6%になっていたと、新聞各紙が書き立てている。具体的な指標としては、2021年11月の日本の輸入物価指数が前年比で44%増となった。さらに同年11月の企業物価指数は9%増で、これは1981年以降、最大の伸び率である。それこそ輸入原油高(オイルショック)以来の数字である。

企業はそんなにすぐには最終商品の値上げはできないから、いまのように円安で輸入コストが上昇すれば利益が圧迫される。それがいま起きているのだと思う。

円安で喜んでいる企業もあるにはあるが、今回の円安は多くの日本企業にとって、あまり良い円安ではないと思われる。その影響が出ていて、結果的に業績悪化、利益圧迫を嫌がって、株価が下がっているのではないか。