選択肢が多すぎると結果は出ず、満足度も低くなる
あなたが「追求する人」なら、この変化の速い、物質主義の世界に生きるのは大変なことでしょう。
今日、わたしたちはかつてないほどの選択肢を手にしています。スマホをちょっとタップすれば、おびただしい数の食品、テレビ番組、ビデオゲーム、夢の旅行先が目に飛び込んできます。あなたが「追求する人」なら、そんな市場で手に入るものをすべて調べてから商品を買いたいと思うはずです。でも、その選択肢が何十、いや何百もあるときに、いったいどうすればそんなことができるのでしょうか?
ここから重要なポイントが見えてきます。わたしたちは、選択肢が多すぎるとかえって選べなくなるのです。ある実験で、被験者にチョコレートを見せたところ、提示された選択肢が多かったとき(30種類)よりも、選択肢が少なかったとき(6種類)のほうが、実際にチョコレートを買う率は高かったという結果が出ています(*4)。また、選択肢が限られていると、買ったものにより満足できることもわかっています。
文章を書くなどの作業においても、同じ現象は見られます。学生に作文をさせると、少ない選択肢から作文のテーマを選ぶ学生のほうが、多くの選択肢から選べる学生よりも完成度の高い作文を仕上げます(*5)。まさに、「少ないほど良い」というわけです。
「完璧」というゴールには永遠にたどり着けない
目に入るものや、身のまわりにあるものが少なければ、選択は楽になります。選んだものに満足もできます。この感覚はある意味、断捨離やシンプルライフにも通じるような気がします。必要なものだけを買い、今あるものをもっと大切にすれば、日々の幸福度が上がるという考え方です。
オンラインショッピングや、恋人候補の顔写真が底なし沼のように次々と現れるマッチングアプリでも、「ほどほど」のルールに従うほうが満足のいく可能性が高いのは、そのためです(*6)。
数カ月ごとに電子機器のサイズが大きくなり、人々がますます頻繁につき合ったり別れたりを繰り返すこのめまぐるしい世界で、「完璧」を求めることは、いわば陽炎のゴールラインに向かって走るようなものです。一歩踏み出すたびにゴールもまた遠ざかり、永遠にたどり着くことができない。同じように、「完璧な」製品や家やキャリアというものも存在しません。なにしろ、より新しくて優れたものがすぐ世に出てくるのですから。
だからこそ、「ほどほどでよい」という心のあり方が、存在すらしないものを執拗に追い求める人生から、わたしたちを救ってくれるのです。
1.Dijksterhuis, A., et al., On making the right choice: the deliberation-without-attention effect. Science, 2006. 311(5763): p. 1005-7.
2.Douglas, K. and D. Jones, Top 10 ways to make better decisions, in New Scientist 2007, "Looking for the echoes of a supernova".
3.Schwartz, B., et al., Maximizing versus satisficing: happiness is a matter of choice. J Pers Soc Psychol, 2002. 83(5): p. 1178-97.
4.Iyengar, S.S. and M.R. Lepper, When choice is demotivating: can one desire too much of a good thing? J Pers Soc Psychol, 2000. 79(6): p. 995-1006.
5.Wilson, T. and D. Gilbert, Affective Forecasting: Knowing What to Want. Curr Dir Psychol Science, 2005. 14(3): p. 131-34.
6.Gilbert, D.T., et al., Immune neglect: a source of durability bias in affective forecasting. J Pers Soc Psychol, 1998. 75(3): p. 617-38.