4月は公私ともに変化の大きい時期だ。新年度を迎えて心身の調子を崩しやすいのはどんな人なのか。年間1000人以上の社員と面談をしている産業医の武神健之さんは「社内異動をした人、育休明けの人、進学などで家族に変化がある人は気をつけたほうがいい」という――。
寝る前のスマホにストレスを感じる女性
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「顔見知りが多い部署への社内異動」の罠

コロナ禍も2年がすぎ、来月にはコロナ禍での3回目の新年度が始まります。4月は、職場では人事異動や転職、家庭では子供の入学や進学など、公私共々の環境変化が多い時期です。ウィズコロナの新年度も3回目ですから慣れた人も多いと思いますが、ウィズコロナだからこその不安な気持ちを抱いている働く人も少なくありません。

今日は、働く人たちが感じる不安について、3人の産業医面談の事例からお話ししたいと思います。

1人目は外資系企業に勤めるAさんです。新卒入社して5年目の20代後半の女性社員でした。

Aさんは残業時間が80時間を超えた人を対象にした長時間労働者面談をきっかけに、自ら昨年の3月に産業医面談に来ました。聞いてみると、年明けから新しい部署に異動し、新年度までは引継ぎ兼研修期間とすると異動前には言われていたようです。しかし、異動後5日目にチームに急な案件が入り、研修もそこそこで仕事量が一気に増えてしまったとのことでした。

新チームのメンバーたちにとってAさんは、同じ会社から来ているし、新入社員ではないし、過去数年間で業務上連携することも多々あったため顔見知りでした。仕事も「わかっているだろう」「できるだろう」という気持ちがあったのか、誰もAさんを新メンバーとして気にかける事はないようでした。

お互いに遠慮して声をかけられなくなる

もともとAさん自身が希望した異動でもあり、早く結果を出し認められたいと強く思うAさんは、コロナ禍の在宅勤務の中、夜遅くまで自宅で一人仕事をしていたとのことでした。新しい業務なのでわからないことは多いものの、業務時間外にチームの人にわざわざ連絡して聞くことに気が引け、一人黙々と迷い悩みながらの仕事は効率が悪かったようです。

みんなの期待に応えられていないばかりか、実際はまだ慣れてすらいないこと、長時間働いているのに結果を出せていないこと、このような自分に焦り、最近は寝ても仕事の夢でうなされているようでした。4月からは研修期間が終わり、自分も評価の対象となることばかりが気になり不安で業務に集中できない、食欲もなくなってきた……。そんな状態でした。

コロナ禍での部署異動、特に顔見知りがいる慣れない部署への異動は、「見知らぬメンバーじゃないから大丈夫」と、周囲の人がフォローを油断してしまいがちに感じます。出社勤務であれば、お互いにちょっとした声をかけやすいのかもしれませんが、在宅勤務が続くと相手の状況が見えず、こんなこと聞いたら/確認したら/言ったら失礼にならないか等々の気持ちを両者とも持ちやすいようでした。

Aさんは面談後、一度この現状を新チームの上司とお話しし、まとまった休暇を取り気力も体力も仕切り直してみることにし、無事に復職。現在は元気に働いています。