ピエール・エルメ・パリとの両輪で唯一無二の存在に

——ケーキに詳しくない自分ですら、「パティスリーSATSUKIのショートケーキはすごい」ことを知っていました。いちホテルのケーキがここまで有名になったのは、その「新しさ」ゆえですか。

【髙山】老舗ホテルであれ、新進のホテルであれ、ホテルのスイーツは昔からありましたが、指名買いされることはほとんどなかったと思います。

そんな中、ニューオータニは1998年に「パティスリーSATSUKI」の開店と同時に、伝説的パティシエ、ピエール・エルメ氏のブランドブティックを世界ではじめてオープンさせたんです。「パティシエ」という言葉が浸透する前で、紹介文には「お菓子職人」とただし書きを入れました。

日本で昔から愛されるスイーツを、日本の素材にこだわり、進化させて提供する「パティスリーSATSUKI」と、パリの本場の味を届ける「ピエール・エルメ・パリ」。この両輪によって、ニューオータニのスイーツが唯一無二になっていたのではないかと思います。

手前はピエール・エルメ・パリの代表スイーツ「イスパハン」とコラボした「エクストラスーパーイスパハンショートケーキ」
撮影=小野さやか
手前はピエール・エルメ・パリの代表スイーツ「イスパハン」とコラボした「エクストラスーパーイスパハンショートケーキ」

——98年のオープンを経て、2004年の「スーパー」シリーズが大評判を呼び、さらなる進化を遂げた「エクストラスーパー」シリーズが放たれるわけですね。

【髙山】2014年に開業50周年のアニバーサリー企画として誕生したのが「エクストラスーパー」シリーズです。

よりコンセプチュアルに、「新エクストラスーパーメロンショートケーキ」では使っているクリームも豆乳クリームにし、SDGsにも配慮しています。糖度14度以上のマスクメロン3分の1個分のメロンを使用しておりますので、箸休め的にライチの果肉も入れました。1ピース4000円超、1日限定20個でほぼ毎日完売しております。

高級フレンチは無理でも、年に1度の高級ケーキなら買える

——「スーパーメロンショートケーキは1620円なので、「エクストラスーパー」の価格は2倍以上になります。強気ですよね。

【髙山】日本は平成の30年間、デフレに苦しみ続けました。お弁当がワンコインで提供され、居酒屋のメニューが300円均一という世界です。無駄を徹底的に省いた企業努力の賜物で、本当にすごいことだと思います。その一方で海外に目を向ければ、物価も賃金もどんどん上がっていて、「本当に日本はこのままでいいのだろうか?」という思いがありました。

ニュー・オータニ執行役員の高山剛和さん
撮影=小野さやか
エクストラシリーズがコンセプチュアルなのに対して、スーパーシリーズでは定番寄りのクリームや生地を使用している

なぜ98年にケーキショップをオープンさせたかと言えば、バブルがはじけたからです。それまではビジネスマンの方をはじめ、多くの方が当ホテルの最高級フランス料理店「トゥールダルジャン 東京」にいらしていました。しかしバブル崩壊後は接待交際費も抑えられ、個人消費も冷え込んでいき、これまでと同じような頻度でトゥールダルジャン東京を使っていただくことが難しくなっていったわけです。

でも、だからといって、プレミアムな体験がしたくないわけではないですよね。誕生日は必ず1年に1度、誰にでもきます。その時、パティスリーSATSUKIのケーキなら1個1000円で買えます。たしかにコンビニエンスストアのケーキと比較すれば、相対的には高い。ただ、1年1度の記念日のために1個1000円のケーキは高いですか、ということだと思います。実際、年齢を問わずZ世代の方々もよくいらっしゃいます。