円安こそが日本衰退の原因
では、本来とられるべき政策とは、いかなるものか?
それは、為替レートが円高になることに対応して、技術を開発したり、新しいビジネスモデルを開発したりすることによって、利益を確保することだ。
実際、1970年代から80年代にかけて、日本経済の発展にともなって、円高が進んだ。このとき、日本企業は新技術の開発によって、それに対応したのである。そして、世界経済における日本経済の地位が高まっていった。
しかし、2000年代ごろから、中国の工業化にともなって日本企業が苦しくなり、円安・賃金固定政策がとられるようになったのだ。
その結果、企業は技術開発を怠り、生産性が低下した。また、古い産業が淘汰されずに残ってしまった。つまり、中国工業化に対し、古い産業を残して、雇用を維持したのだ。
円安は麻薬のようなものだ。本来行われるべき技術開発と産業構造の転換をせずに、雇用を維持することができる。そうした政策を20年間飲み続けて、とうとう足腰が立たなくなったのが、現在の日本だ。円安こそが、日本衰退の基本的な原因だ。
2010年ごろには、円高が進み、日本経済の「六重苦」と言われるようになった。
本来であれば、労働者の立場から円高をよしとする政策をとるべきであった。しかし、当時の民主党政権は、懸命になって、円安誘導を試み、日本の労働者の国際的な価値を低めたのである。
そしていま、日本は世界の先進国から滑り落ちようとしている。
賃金は上がらないが物価は3%上昇も
これまで、企業にとって、円安になれば利益が増えるという意味で、「円安はいいこと」だった。しかし、いま、企業にとっても「円安が悪いこと」になってきている。その理由は、次の通りだ。
コロナによって経済が弱まっていることから、企業は、原材料価格の上昇を、完全に転嫁できない可能性がある。とくに、価格交渉力が弱い中小零細企業は、そうだ。だから、付加価値生産額が増えない。賃金は上げられないし、利益も増えない。
これまでの円安と違って、企業の立場から見ても、円安が望ましいとは言えなくなってきているのだ。
ところで、「完全には転嫁できない」とは、「転嫁がなされない」という意味ではない。実際、すでにかなりの転嫁がなされている。
22年2月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合)は前年比0.6%だが、携帯電話通話料の値下げの影響を除くと、すでに2%程度の状態になっている。これまで述べてきた3月以降の状況を勘案すれば、今後3%程度の消費者物価上昇は、十分ありうることだ。
ところが、賃金は上がらない。春闘での賃上げ率が3.1%程度になったが、全体ではもっとずっと低い。だから、実質賃金は低下し、国民の生活は苦しくなる。
政府は物価対策を講じるとしているが、ガソリン価格対策のような小手先の対症療法をいくらやっても無意味だ。
いまの日本で最も重要なのは、金融緩和から脱却して、円安進行を食い止めることだ。
通貨価値を守ることは、中央銀行の最も重要な責務だ。中央銀行は、そのために作られた。いまこそ日本銀行は、中央銀行の原点に戻る必要がある。