リモートワークの普及により、子供の受験勉強を近くで見られる親が増えた。プロ家庭教師集団名門指導会の西村則康さんは「親子が一緒にいる時間が長くなることで、良くない方向へ進むことがある。教育虐待につながらないように注意してほしい」という――。
子供を叱る親
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親のリモートワークが子供にとって逆効果になっている

コロナ禍3年目の春を迎え、今ではすっかりリモートワークが定着したという人は多いだろう。コロナ前の共働き家庭は、日中家にいる時間が少なく、子供の受験サポートが十分にできないことが気がかりだったに違いない。それがリモートになったことで、家で子供の勉強を見てあげられるようになった。これを良しと捉える親は多い。しかし、私は、残念な方向へと加速しているように感じる。

まず、親と子が一緒にいる時間が長くなると、親は子供のダメなところばかりに目がいくようになる。なかなか勉強を始めないと「早く勉強をしなさい!」と急かし、ダラダラと勉強をしていると、「そんなんじゃクラスアップできないわよ!」と発破をかけ、問題が解けなければ「なんでこんな問題を間違えるのよ!」と責める。親としては、「今私がここで言ってあげないと、この子はダメになってしまうかもしれない」という親心で言っているつもりなのだろう。だが、それを毎日言われ続ける子供は、たまったもんじゃない。

中学受験で多いのは「言葉の暴力」による教育虐待

以前、体験授業で訪れたことのある家庭の話をしよう。その家では、母親が子供の受験に過度に熱心で、毎日のように「○○をしなさい!」「△△をしなければ合格はできないわよ!」と子供に圧力をかけていた。低学年の頃は従順だった子供も、日に日にストレスがたまり、高学年になった頃には母親に反抗するようになった。一度、「家出をしてやる!」と大騒ぎになり、警察沙汰になったこともある。

だが、この子の場合は、ちゃんと自分の気持ちを外に吐き出しているので救いがある。子供によってはストレスを抱え込み、「どうせ僕なんて……」と無気力になってしまうこともある。それがさらにひどくなると、円形脱毛症や胃潰瘍といった身体に不調が表れてしまうケースもある。ここまで来ると、教育虐待と言っても過言ではない。

いずれにしろ、そこまで子供を追い詰めるのは、親に原因がある。しかも、家庭という閉ざされた空間で行われているので、まわりは気づきにくい。また、小学生の子供は、まだ精神的に幼いため、善悪の区別がつかず、親の言うことがすべてと思い込んでしまうところがある。親自身も、わが子のために良かれと思って言っているので、相手を追い込んでいる自覚はまったくない。

虐待というと、手をあげるといった暴力を連想しがちだが、中学受験で陥りやすい教育虐待は、圧倒的に言葉による暴力が多い。また、親がいつもイライラしていたり、ため息をついていたりという表情や態度も、子供を無意識に傷つけている。