中学受験は子供に「丸暗記をさせすぎ」なのか。プロ家庭教師集団名門指導会の西村則康さんは「今の中学受験塾は覚えるべきことが多すぎる。だからといって、知識を身につけなければ、思考力も伸びない」という――。
勉強している子供の手
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「知識だけ」を答える問題はほとんどない

近年、小学生の子供を持つ親からよくこんな質問を受ける。

「小学生の子供に丸暗記・大量学習させる中学受験は本当にいいのでしょうか?」

こうした質問を受けるたびに、「ああ、この親御さんは、そういう受験勉強のやり方をやってきたのだろうな」と思う。それはおそらく自身の大学受験と重ね合わせているのだろう。必死に丸暗記をし、大量の演習をくり返し、なんとか合格をつかみ取ることができた。そういうつらい思いをまだ幼い小学生の子供にさせてしまうことに、疑問や罪悪感を抱いているのだろう。

だが、それはそもそも勉強のやり方が間違っているし、中学受験でどんな力が求められているかが分かっていない。難関校の入試を見てみれば一目瞭然だが、近年の中学入試は知識だけを答えさせる問題はほとんどなく、思考力を見る問題が増えている。考える上で、必要となるのが知識だ。思考力とは、自分の頭の中にある知識と知識を組み合わせて、問題解決の糸口を見つけ、自分なりの答えを出すこと。知識がないのに考えようとしても、それは感じたことにすぎない。ところが今、この「知識」を軽視する風潮がある。

“探究型の塾”は指導者の力量に左右される

探究学習という言葉が流行り出したのはいつ頃だろうか。近年、探究学習をウリにする探究型の塾が人気を集めている。文部科学省が定める学習指導要領に探究学習の重要性が述べられていることも影響しているのだろう。探究塾では子供たちの興味を喚起し、思考力を伸ばすことに重きを置いている。思考力、つまり今の時代に必要な力を伸ばしてくれると、期待する親は多い。そういう親にとって、詰め込み型の中学受験は悪で、思考力を重視する探究塾は善というイメージが固定化されているように感じる。冒頭の質問が出るのも、そういうステレオタイプな捉え方をしている表れだ。

しかし、探究塾の効果は、指導者の力量によって大きく左右されることを知っておかなければならない。良い指導者は、子供が興味・関心を持つように、テーマを熟考し、下準備も念入りに行う。そして、子供たちの思考が広がるような問いを渡し、どのような声が返ってきてもいいように、いくつもの選択肢を持ち合わせている。話が思わぬ方向にいっても、それを楽しむ心の余裕があり、さらに思考を深める問いを渡す。そうやって、なんらかの形で子供たちの記憶に残す工夫をしている。

しかし、それはたくさんの知識と技量を持ち合わせた、限られた指導者にしかできない技だ。むやみに「探究塾が良さそう」と思い込むのは危険だと感じる。また、近年、探究学習に力を入れている私立中高一貫校も少なくないが、本当に中身のある授業をしているのか、力量のある先生はどのくらいいるのか、しっかり見極める必要がある。