大人も子どもも叱られる

また、叱られるのは子どもたちだけではありません。大人だって叱られます。

例えば大人たちが働いている職場がそうです。なんらかの理由で部下が上司に叱られるという構図は、ごくありふれたものかと思います。ただし大人の場合、それは声を荒立てるような激しいものではなく、「注意する」「言い聞かす」とでも言い換えられるものが多いかもしれません。また近年では過度な叱責はよくないという考え方が、当然のこととして浸透している職場も多いでしょう。

しかしながら、「叱る」ことが日々求められている職場もまだまだ存在しています。そういった職場では、相手を激しく非難し罵る声が、当たり前のように飛び交っています。「部下を叱れない上司は、失格だ」「厳しく叱らないからうまくいかない」などと言われ、むしろ「叱る」ことが推奨されている場合も多いでしょう。そこでは、「叱る」ことで人を育てていると考えられているからです。そのため、ミスをすればきつく叱責しないといけませんし、成果が出ていなければ怒鳴りつけて危機感を植え付けなければいけません。

また、講師が激しく叱りつけるような新入社員研修が好まれる場合もあるようで、そういった研修では、無意味に大きな声を出させたり、無理難題をふっかけたりしてなんとか叱る理由を作り出し、新人たちが泣き出すまで叱りつける「指導」が行われることがいまだにあるのです。

子どもにとっても大人にとっても、「叱る」という行為は身近なものであり、叱る側にも「叱らなくてはいけない」プレッシャーが少なからずあることが、おわかりいただけるかと思います。

「叱っちゃダメ!」もあふれている

一方で「叱ってはいけない」という考え方も、世の中にはたくさん存在しています。「叱る」を求める発想とは真逆ですが、こちらもよく浸透している考え方です。

書店に行って、育児や教育、人材育成に関連する書棚の前に行くと、「叱らずに、ほめましょう」という趣旨の本がたくさんあります。少なくとも「たくさん叱りましょう! 叱ることは効果抜群です!」などという本はまず見かけません。上手な叱り方という趣旨の本はありますが、その場合でも「ほめ方、叱り方」と両方が書かれていることが多いかと思います。本だけでなく、育児や教育の専門家が行う講演や相談においても同様です。

この「叱らずにほめる」という文脈では、「叱る」を否定するメッセージが強調され、「叱る」はしてはいけないことだと語られることが多くなります。つまり「叱っちゃダメ!」という価値観もまた、ごくありふれたものなのです。

一歩、外に出ると「叱らないと叱られる」のに、一方では「叱っちゃダメ!」が当たり前とされる、そんな矛盾が私たちを取り巻く社会に存在しています。

子供に拍手する両親
写真=iStock.com/takasuu
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