バリアの多い地域には人が寄り付かない

車いすなど移動に課題を抱える人にとっては、少しの段差でもすべてがバリアだ。それがあることによって、生活範囲や可能性は大きく縮められてしまい、すなわちそこには住めないことを意味する。障害のある人や高齢者は、バリアフリー化が進んでいない観光地には来てくれないだろう。また、子育てや老後が大変だと思う地域には、若者が住みつかなくなる。

車いす利用者などがストレスなく乗降できるように、公共交通事業者やボランティアなどが連携する体制づくりが大切だ。日本の公共交通は欧州と異なり、数多くの民間事業者で支えられている。そのため車いす利用者は事前に1社1社に連絡しなければいけない状況にある。

ANAやJR東日本、タクシー事業者などが参画している「ユニバーサルMaaS」のように、各事業者が車いす利用者の情報を共有してお互いの負担を減らし、外出を躊躇する人を減らす取組みがもっと広まるべきだろう。

「ユニバーサルMaaS」の実証実験で車いす利用者をサポートするANAの客室乗務員
写真提供=ANA
「ユニバーサルMaaS」の実証実験で車いす利用者をサポートするANAの客室乗務員

「バリアフリーが進まない」と批判するのは簡単

時間はかかるがインフラ整備も欠かせない。欧米の鉄道駅では駅員がほとんどおらず、日本のように車両に乗降する車いすのスロープを設置するシーンは少ない。日本も一人で移動できるよう、自動開閉スロープのついた車両開発やバリアフリーの対応の車両購入が進む予算や新たな資金の獲得の仕組みづくりを検討してはどうだろうか。

大切なことは単に「日本はバリアフリーが進んでいないではないか」と批判するのではなく、改善している点は評価することだ。歴史的背景や日本の社会構造を理解しつつ、今後はどう対応していくと良いのか、一人ひとりが考える必要がある。

その際には、移動に困難を抱える人の声が非常に大切になる。「みんながお出かけしているのだから、私も出かけたい」「遠くに旅行に行きたい」。そんな当たり前の気持ちを大切にしてあきらめないでほしい。何が不便と感じているのか、どうすれば改善していけるのか、うまく想像できない人が大部分なので、ぜひ伝えてほしい。

まずは、心理的バリアの存在を知り、困っている人がいたら自然と助け合う。そうすれば、車いすやベビーカーを利用する人が外出に躊躇せずにすむ社会づくりがさらに進んでいくだろう。

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