日本で頼れる人のないベトナム人もいる

あちこちで買い集めたベトナム食材がパンパンに入ったビニール袋を抱え、近所に住む私の知人の部屋で一休みしながら、改めてドゥックさんに話を聞くことにした。

——ベトナムに戻れないことをドゥックさんのご家族は心配してないですか?

去年までは心配していたけど、今はここでしっかり生活できているとわかって安心しています。それにベトナムもコロナの感染者が増えて大変だから、むしろ状況が落ち着くのをゆっくり待ってから帰ってきた方がいいと思っているみたいです。

——ベトナム国内でもワクチン接種は始まっているんですか?

始まっているけどペースはすごくゆっくりです。それを待つよりも、日本では在留外国人にもワクチンを打つ予定だということをニュースで読んだので、日本で接種する方がいいかもしれないですね。ワクチンを打てば、ベトナムに帰りやすくなるかもしれないです。

ベトナム航空のボーイング787-10
写真=iStock.com/Thanh Ho
※写真はイメージです

——日本で過ごしていて、コロナにかかってしまうのではないかという不安は感じますか?

それは毎日考えていることです。もしそうなったら、支援団体の窓口に相談します。前に風邪をひいたときにそのセンターに電話したら、すごく親切に対応してくれました。でもそのときは結局、龍角散ののど飴をなめて、できるだけ野菜を食べるようにして治しました。

——健康状態が深刻になったときに、スムーズに病院を受診できるか心配です。

私は英語や日本語も話せるし、オンラインで情報を収集できるから条件はいいのです。ベトナム人の労働者は仕事が大変で、体をケアする暇もないからもっと大変です。彼らの中にはオフィシャルな問い合わせ先を知らず、Facebookで頼れる人を探すしかない人もいるようです。

——大阪で過ごすことになった1年間を、ドゥックさんはどう感じていますか?

私はアーティストです。この状況をアドバンテージにしたい。この状況を制作に活かしていきたい。それはコロナに限らず、どんなシチュエーションに対しても思うことです。ポジティブな気持ちを持っていないと前に進むことはできません。大阪の人々はすごく親切に、ユーモアのセンスを持って私を受け入れてくれました。

前に日本に来たときは東京の青山と長崎の佐世保に滞在しましたが、大阪、東京、長崎、どこも印象が違います。大阪は私の故郷のホーチミン市のように、海に近いフレンドリーな大都市だという印象です。同時に、私の母の故郷であるハイフォンという港湾都市を思い起こさせます。

——大阪で生活していく中で困ったことはありましたか?

去年の9月にパスポートの期限が切れて、クレジットカードも使えなくなったことがあって大変でした。そのときは大阪のベトナム総領事館に電話したけど、ベトナム人にとってはわかりにくかったです。ベトナムの政府の窓口なのにアナウンスが日本語の「お待ちください」だったりして(笑)。それと、予約していたベトナムへのフライトがキャンセルになって、ベトナムと国際電話でやり取りしたのですが、その通話料が100ドルもかかったのはショックでした。