日本で暮らすベトナム人が増加している。コロナ禍で大阪滞在を余儀なくされているアーティストは「日本にいるベトナム人は『かわいそうな人たち』という先入観を持たれているが、決してそうではない」という。ライターのスズキナオさんが取材した――。(第1回/全2回)

※本稿は、スズキナオ『「それから」の大阪』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

日本とベトナムの国旗
写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
※写真はイメージです

コロナウイルスの影響で大阪に取り残されたドゥックさん

ベトナム出身のアーティストであるトラン・ミン・ドゥックさんは1982年生まれ。個人と社会、異なる国と国など、さまざまなスケールにおいての関係性をテーマに、自由自在に表現スタイルを変えながら作品を作り続けている。

これまでニューヨークやパリをはじめ世界各国の都市で制作・展示を行ってきており、過去にも2度来日し、東京や長崎で開催されたアートイベントに参加している。2011年10月に東京で開催されたイベントでは、巨大なピンク色の布を引きずりながら渋谷や新宿の町の中を歩くというパフォーマンスを行い、東日本大震災後の人の営みと、その日本にいる外国人としての自分を表現したという。

国際的に活躍するアーティストであるドゥックさんだが、2020年に大阪での展示を終え、ベトナムに戻ろうと思っていた矢先、新型コロナウイルスの感染状況が深刻になった。ベトナムへの空路もストップし、まったく先の見えない中でそれから1年以上を過ごしてきた。これまで世界のあちこちに1カ月、2カ月と滞在しながら制作を行うことはあったが、ベトナム以外の国にこんなに長期にわたって滞在するのは初めてのことだという。なんのめぐり合わせか、その地がたまたま大阪だったというわけだ。

日本とベトナムを行き来する飛行機は大幅に数を減らしつつも運航されていたのだが、ベトナム国籍を持つ人がベトナムへ帰国することが困難な状況が長く続いているという(ビジネスに従事する日本人がベトナムに渡る方がまだ簡単だそうだ)。

ドゥックさんは積極的に情報を収集して帰国できるチャンスを求めているが、ベトナム政府が用意する限られたフライト数に対して帰国希望者の数が多く、妊婦や高齢者、持病のある人などが優先されるため、自分が戻れるときがいつ来るのかはまったくわからぬままだとのこと。新型コロナウイルス感染症はベトナム国内でも猛威をふるっており、それによって帰国はますます困難になっているそうだ。