内部被ばく対策がより重要
真っ先に着手すべきなのは、環境、食品中の放射性物質量の測定だと考えられます。現在の空間線量率を考えると、ほとんどの地域で、外部被ばくよりも内部被ばくへの対策がより重要であることは多くの識者の見解が一致するところです。その理由は、外部被ばくの実測が進み、その総量がある程度みえてきたのに対し、内部被ばくについては、長期間に受ける被ばくの総量が、まだ推定、把握しきれていないからです。
原発事故後、東日本の広域に起こった水道水への放射性物質の混入は、われわれの放射性物質への関心を急速に、否応なく高めました。その後、牛乳、野菜、海産物、牛肉等さまざまな「食」への混入が、現在も続いています。福島では、昨年秋の米の収穫時期に緊張感がはりつめました。現在でも心配の種はつきません。
このような状況の中、環境中や食品の放射性物質量を測定し、その値を開示することは重要です。事故後から、地上に落下した放射性物質の量を測定する定時降下物(fallout)や水道水に含まれる放射性物質量について計測値が公表されていましたが、当初の公開範囲は十分ではありませんでした。
放射性物質量を高精度で測定する場合、半導体検出器(ゲルマニウムカウンターなど)を用います。エネルギー分解能という特性がよいので、放射性物質の種類ごとの比率を知ることも可能です。ただ、これは1台2,000万円程度もする高価なものです。機器不足から福島県の給食の放射性物質検査で、すべての食材に手が回らない、という報道もあり、福島県に住む人たちは心配を募らせています。
測定値を公表し、内部被ばくの心配がより少ない「食」を確保することに、国や行政、専門機関は最大限、積極的に努力しなければなりません。 定時降下物や土壌、水など環境中の濃度についても同様です。現在、官民を通じ、放射性物質量を測定するための様々な取り組みが行われていることは評価できます。特に、食品に含まれる放射性物質量を測定することはとても重要ですので、機器の配備や検査体制の確立には、国や行政、専門機関が積極的に施策を講じていくことが求められます。
実際に人体が受けた内部被ばくの量を測定するのは、全身カウンター(WBC)による方法です。WBCの原理そのものは他の放射線測定器と変わりませんが、人間の身体から出る放射線を測る目的に特化した形状をしています。また、WBCを使う以外にも、尿や便を用いて測定するバイオアッセイ法や、多くの医療機関にあるガンマカメラという装置を使用して計測する方法が精力的に研究されていますので、近い将来に汎用化、実用化されていくと思われます。
健康への影響に直接関係する内部被ばく量の測定法は、極論するとこれらしかありません。しかし、内部被ばくをタイムリーかつ十分な精度で測定するための測定に必要な機器の数は少なく、WBCは2011年6月現在で全国に108台しかないのです(内閣府資料より)。
ただ、必要なケース、測定を望むケースについて対応が進んでほしいと願うのと同時に、当面、現実的な方法も模索されるべきだと思います。環境中および食品中などの放射性物質量、空間線量率、ガラスバッジ法による外部被ばくの実測値などから、内部被ばく実測に関する地域ごとの実施計画を定め、一定の数の住民の測定をすることを多くの地域で行うのがその一例です。