「危険じゃないのはわかるよ。でも……」

この原稿を書く直前、私は出張で米国にいました。その間、仕事仲間やタクシーの運転手など、多くの人から日本の“radiation problem”について質問を受けました。震災直後の昨年5月にフィンランドに行ったときも同じでした。また、私のほうからも、機会あるごとに放射線のこと、日本のことを聞いてみました。心から心配して声をかけてくれる人もいましたし、まったく関心がない人もいれば、日本を避けている人もいます。

30年来、家族ぐるみで親しくしている米国人の友人がいます。同じ放射線科医で年齢も近いので気が合います。彼はいわゆる日系3世。家族でハワイに移住した日本人というお母さんを持つ人です。日本が大好きで、これまでに何度も日本に来ています。ただし、メンタリティーは完全にアメリカ人。笑顔を満面に浮かべ、ユーモアを交えて丁寧に話しますが、言いたいことはしっかりと主張します。その彼が震災後こう言うのです。「日本には当分行かないから、会うならアメリカに来てね!」と。お嬢さんがいるということもあり、放射線の問題が解決しない日本には来たくないのでしょう。

もちろん、彼も放射線科医ですから、日本の状況はよくわかっています。私からも一所懸命に状況を説明しました。けれど、彼はまだ、「うーん、日本が危険じゃないのはわかるよ。でも旅行は楽しみにいくものだから、家族が少しでも不安に思うことがあったら、なかなかね……」と説得されてくれません。これからも私は「また日本においでよ!」と言い続けると思いますが、いつ彼の気持ちが変わってくれるのかはわかりません。

震災発生から間もない頃、日本在住の外国人エクゼクティブから放射線問題についての相談を何件か受けました。彼らの関心は一様に、「東京に住んでいてよいか」でした。当時はまだ事故の全容が不明だったので、私はこう答えました。「まずは少し距離を置いて、状況がわかってから判断したらよいと思います」。その後、秋以降に同じセッションを行ったときには、「東京のリスクはこの程度だから、東京に居る理由があるなら戻ってきてよいのではないか」と話しました。これを聞いて戻ってきた人もいれば、戻らない人もいます。

震災後、状況が少しずつ明らかになるにつれて程度は減ってきてはいるものの、このように日本は今も外国や外国人から不安視されているのです。