テレビ司会者・タモリはどこがすごいのか。ライターの戸部田誠さんは「まるでジャズのように、状況を見てアドリブを入れ、即興で笑いを作り上げていく。そんな『一回限り』の空間を作り出す能力が非常に高い」という――。
※本稿は、戸部田誠『タモリ学』(文庫ぎんが堂)の一部を再編集したものです。
アドリブを好んで入れるタモリの狙い
「いいとも」で、笑福亭鶴瓶が何か身振り手振りで熱っぽく語っている最中に、タモリが「目、細いね?」などと、まったく脈絡のないフリを挟む場面がしばしば見られた。
「なんでそんないらんことするん?」と鶴瓶は尋ねた。自らが主催するイベント「無学の会」のゲストに、タモリを招いた時のことだ(99年7月20日)。
タモリは「放っておいても絶対笑わせられるのはわかってる。みんな笑わせるセオリーを持ってるから、そこでわざと無理難題を吹っかけてみると、次の笑いを求めようとして新鮮なものが見られる。これが、マンネリ化を防いでる」と答えたという。
タモリはセオリー通り、予定調和になりそうな空気を感じた時、そこに予期せぬフリを入れることでアドリブが生まれるのを促していくのだ。
「今そこで起こることが一番面白い」
鶴瓶はタモリを「受けて答える芸人じゃなくて、相手を俯瞰してもの言う芸人、セオリーを崩して、新たな一面を引き出す。これまでにない形の芸人」だと評する。タモリと鶴瓶の間には「いいとも」で、いわば共犯関係が成立しているのだ。
時にタモリの無意味で自由なムチャぶりを、鶴瓶は懐深く受け止め続ける。そしてふたりは目を光らせながら、何かハプニングが起きないかとさまざまな起爆剤をさり気なく仕掛けていく。
タモリは言う。「僕は予定調和が崩れて残骸が散らばった時に、また違うものになるのかどうかを目撃したいし、それが面白いんです。怖さ半分興味半分ですけど、結局は今そこで起こることが一番面白いわけですから」[1]