「第二次世界大戦中のウクライナ人」を持ち出す

第二次世界大戦というレンズを通して見ると、民族としてのウクライナ人は第五列だった。つまり、彼らはロシア人やロシア国家の敵だった。

クリミア併合を発表するプーチンの3月18日の演説は、この点をきっちりと反映させたものだった――2011〜12年のデモで国家を脅かしたロシア国内の第五列と、ウクライナ人を巧みな言い回しで結びつけたのだ。

戦時中の第五列といえば、国家の裏切り者であり、ナチスに協力したソ連の人々や民族を指す。そこで、プーチンはソ連の歴史のなかでも混迷をきわめた20年間――ロシア革命から第二次世界大戦勃発までの時期――についてあえて言及した。

史実を「侵攻の武器」として利用する

当時、ウクライナ人はたびたびロシア人と対立し、ソ連支配に反対するウクライナの民族主義グループが次々と組織された。

その一つであるウクライナ民族主義者組織(OUN)は、国境を越えたポーランドに拠点を置くグループだった。

当初、OUNとその指導者のステパン・バンデラは、1939〜41年にポーランドとウクライナに侵攻したドイツ軍と協力関係にあった。彼らの心には、ドイツがウクライナ独立を支持してくれる、という(無益な)期待があった。

OUNがドイツと協力関係にあったという史実を利用して、プーチンは、ステパン・バンデラをヒトラーの右腕とイメージづけようとした(実際のところ、バンデラはヒトラーに会ったこともなく、最後にはナチスとソ連の両方から迫害されることになる)。

さらにプーチンは、ウクライナの新政府がステパン・バンデラの思想の流れを引くものだと印象づけようとした。

彼は数々のスピーチや発言のなかで、国家の生き残りとロシア世界(ルスキー・ミール)の防衛を賭けたロシアの長年の戦いについて繰り返し語り、古い物語を引っぱり出してきた。

第2次世界大戦中、発砲可能なライフルを手にする2人のロシア兵
写真=iStock.com/Artsiom Malashenko
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「ウクライナはユダヤ人虐殺の実行犯」という物語

2014年、ロシアの長い奮闘の最新章の1ページに立ったプーチンは、「ステパン・バンデラのウクライナ」に潜む第二次世界大戦の恐怖の再来を必死に食い止めようとしていたのだ。

一方、第二次世界大戦中のナチス・ドイツとロシアの協力については、プーチンは巧みな話術を駆使して正当化した。

ドイツによるポーランド侵攻を容易にした1939年の独ソ不可侵条約と、スターリンとヒトラーによる秘密取引は、ロシアの生存のために必要だったとして弁護された。

ところが、ステパン・バンデラとウクライナの民族主義者たちは、過激思想や反ユダヤ主義に駆られ、ナチスに仕えてウクライナのユダヤ人を虐殺したとして非難された。

メディア戦略によって広められた「プーチンが語る物語」のなかでは、彼らはホロコーストの実行犯であり、ウクライナの民族主義思想を掲げてロシア人をも攻撃した危険分子だった。

プーチンは訴えた。

今、世界は新たなファシストの台頭に直面している。

しかしアメリカや西側諸国の政府は、1940年代の戦時中の同盟ではロシアと手を組んだにもかかわらず、今回はそうしようとせず、なぜかウクライナの過激派を支援・扇動しようとしている。ロシアを崩壊させたいという欲求から、アメリカとヨーロッパの米同盟国は第二次世界大戦の原則そのものを裏切っているのだ。