韓国の「危機」を報じる日本の大手メディア

制度が安定していれば、政治の動きはある一定の範囲に限定される。とはいえ、それはその中で変化がない、ということではない。何故なら制度が同じでも、その制度に対する考え方や、それを動かす人々の在り方が変われば、当然、制度の働きも変わってくるからだ。例えて言えば、野球のルールは同じでも、その日の選手や審判の働きが変われば、全く異なる試合になるのと同じことだ。

だから、その変化を読み間違えれば、我々自身は彼らの行動を正確に予測できなくなる。重要なのは我々がどのような変化を見落としているかを確認することだ。

とはいえ、何を見落としているのかを直接探すのは難しい。だとすれば、行うべきは、理解の背景にある自分の認識のステレオタイプを確認し、そのどこが現実と異なるかをチェックすることだろう。

たとえば、国内のある大手ウェブメディアの、韓国政治に関わる記事を見てみると、繰り返し、政権の「危機」を報じている。つまり、そこで示されているのは、経済面のみならず、政治面においても、韓国は常に「危機」に瀕しているという認識である。

任期中に職を追われたのは実は朴槿恵のみ

それでは現実の韓国政治はどうなっているのだろうか。このような韓国政治に関わる認識の背後にあるのは、先にも述べたような歴代の大統領が次から次へと逮捕されるような状況であり、また、朴槿恵政権における大統領の弾劾を求める動きに典型的に表れたような、任期末期の大統領の支持率が大きく低下する、「レイムダック現象」といわれる状況であり、またそれに伴う政治的な混乱である。

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写真=iStock.com/Orbon Alija
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とはいえ、ここにはまず基本的な誤解がある。注意しなければならないのは、民主化後の韓国の歴代大統領がおおよそ好ましくない末路に直面したのは、ほとんどの場合において「退任後」のことであり、任期中のことではない、という事実である。

より正確に言えば、1948年の建国から今日までの74年間において、任期中に制度的な手続きを経て国会により弾劾され、その弾劾が憲法裁判所に認められ最終的にその職を追われるまでに至ったのは、実は2017年の朴槿恵1人しかないのである。

背景にあるのは、国会の多数により簡単に首相を「不信任」できる議院内閣制とは異なり、韓国が採用する大統領制における「弾劾」には、遥かに高いハードルが存在することである。

1つの理由は、弾劾が行われるには、単なる大統領の政治に対する不満の高まりでは不十分であり、その具体的な違法行為の立証が必要になるからである。

韓国においては、まず国会がその違法行為を認定し、それを前提とする弾劾案が3分の2以上の多数で可決され、さらにその妥当性を憲法裁判所が審査することになっている。当然のことながら、その手続きは一朝一夕では不可能であり、朴槿恵の弾劾においても、3カ月を超える月日がかかっている。