「特産品」を日本全国にアピールする難しさ

「地域活性化事業を始めるので手伝ってほしい」

知人から連絡があったのは過疎地域で暮らし始めて5年目だった。自宅から100キロ程離れた地域だったので住み込みで働くことになった。

その業務内容は、地元特産品を使って加工品をつくり、日本全国にアピールするものだった。そもそも、特産品で地域を活性化させるという目的そのものが厳しかった。地元の特産品を使った地域活性化策は日本全国の地域がやっている。それらの地域と同じ土俵で競争しても勝てる見込みがなかった。

都市であれば店舗によい商品を並べておけば確実に売れていく。しかし過疎地域では店舗販売だと利益が出ないため、商売相手は必然的に日本全国になる。鹿児島県の奥地からだと商品値にプラスして高額の送料がかかる。都市近郊の地域と比べて割高になるため、おのずとターゲットは富裕層に絞られるわけだが、特産品なるものは旅先で食べ、旅先で買うから価値があるのであり、わざわざ取り寄せてまで購入しないものだ。

仮にマスメディアに取り上げられて一時的に売り上げが伸びたとしても、それは一過性のものであり、消費者の興味が薄れれば売り上げも落ちていく。

おだんご
写真=iStock.com/Takosan
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「まずいお菓子」などの奇抜な案はことごとく無視される

食品には「いずれその味に飽きてしまう」といった大きな落とし穴がある。マスメディアに取り上げられて企業規模が大きくなったものの、長続きせず倒産した会社はたくさんある。実際にかつて私が東京で働いていた弁当屋は、山梨県の弁当屋を吸収合併するほど一時的に大きくなったが、その後は事業規模がどんどん縮小して倒産してしまった。

本来なら、第三次産業で雇用をつくりだすべきだが、過疎地域の人たちが利益になり難い昔ながらの特産品にこだわっていた。そうした方法でないと地域の人たちの賛同を得られないのである。また、特産品の販売で失敗するぶんには、その損失は補助金で補填ほてんされるとのことだった。過疎地域の人びとが特産品を売りたいのだから、雇われている身としては、やるべきことをやるしかなかった。

そこで提案書をたくさんつくった。苦みのある健康食を使った「まずいお菓子」や、そのまずいお菓子を一つだけ入れたロシアンルーレット方式の「毒入り饅頭」などの商品を提案していった。