役者が魅せる「心情描写」を楽しめる今期ドラマ
死んだ妻が小学生に乗り移って帰ってくる「妻、小学生になる。」(堤真一主演・TBS系)、40歳の人妻が22歳青年と出会って人生を見つめ直す「シジュウカラ」(山口紗弥加主演・テレ東系)、他人に恋愛感情や性的欲求をもたないふたりが家族をめざす「恋せぬふたり」(岸井ゆきの&高橋一生主演・NHK)だ。
いずれもキャスティングが最強の布陣で、心情描写を最優先する作品になっている。切なさや歯がゆさ、いとおしさやもどかしさなど、喜怒哀楽を細分化したその先の感情を丁寧に映し出す。心の機微をこんな表情で表現するのか、としみじみ味わえる良作だ。
今期ベストは「おいハンサム‼」
それはさておき、本題は別作品。今期ベストの「おいハンサム‼」(東海テレビ制作、フジ系)である。
伊藤理佐の漫画原作で、些末な日常のエピソードが多いのだが、複数の作品のうまみを凝縮し、ホームドラマとして編み出された。何がそんなに引き付けるのか、考えてみた。
絆礼賛ではない家族モノの「低体温」が良い
吉田鋼太郎演じる令和の頑固親父・伊藤源太郎とその家族。おおらかな妻・千鶴はMEGUMIが、恋愛迷走中の長女・由香を木南晴夏、夫の不義理で帰省中の次女・里香を佐久間由衣、押しに弱くて主語がない三女・美香を武田玲奈が演じている。
3人の娘はそろいもそろって男を見る目がない。
注文の多いモラハラ男に、妻子持ちで不倫ざんまいの男、思考の破綻に気づかない漫画家志望、夢追い人のつもりがただの負け犬である路上ミュージシャン……。
次から次へとクセ強めな男たちが登場。娘たちの恋愛事情すべてを知るわけではないが、父親としては心配で仕方ない……という物語の主軸はある。あるが、頑固親父が強硬に介入するわけではないし、娘たちも激しく反発するわけでもない。
家族の間に秘密はあっても嘘はなく、風通しはいい関係。適度な大人の距離が保たれているので、暑苦しくない。家族モノとうたってはいるが、「愛と絆の礼賛」ではない低体温なところが特長のひとつだ。