CVTを使うことで構造的な偏りを克服する

このようにEVでは減速機に代わって有段トランスミッションを用いることで、モーター回転数と駆動力の最適なマネージメントができる。そのため、最高速度を向上させたり、出力の小さいモーターと容量の少ないバッテリーで重い荷物を運んだりすることが可能だ。

しかし、この手法では比率の決まったギヤ段を用いることから、走行性能を高めるか、あるいはAERを優先するのかなど構造的な偏りが生じてしまう。

CVT4EVは、固定ギヤ(減速機)の代わりに無段変速のCVTを使うことで、そうした偏りの克服を狙った。ご存知のようにCVTは軽自動車から乗用車、さらには商用の小型バンにまで幅広く搭載されているトランスミッションだ。北米や欧州市場でも数多く搭載車が販売されていることから我々にとっても馴染みが深い。

CVTの原理はとてもシンプル。入力側と出力側の2セットのプーリー(滑車)をベルトでつなぎ、プーリーの大きさを変えることで、変速ギヤ構造を用いることなく無段階に変速する。幅広いレシオカバレッジ(変速比率の幅)が設定でき、なおかつ小型に設計できることも利点だ。

繰り返しになるがCVT4EVでは、CVTを電動モーターの減速機代わりに使う。無段変速機構の強みを活かすことで有段ギヤ以上の効果が得られるからだ。

モーターやバッテリーの小型化は省資源化に直結する

「走行性能の向上とともに、搭載する二次バッテリー容量の小型化、AERの延長、これらすべてを同時に向上させることがCVT4EVでは可能になる」(ボッシュの技術者)と言うが、モーターやバッテリーの小型化は省資源化に直結することから歓迎されるべき事象だ。

筆者による試乗では、電動駆動モーターのトルク値を290N・m(eゴルフ正規の値)とし、最高速度が85km/hになるよう設定したテストと、電動駆動モーターのトルク値を203N・m(30%減少)させ、CVTのレシオカバレッジを2.55として最高速度を120km/hに設定したテストを行った。

結論からして、トルク値を小さくした場合でもeゴルフ本来以上の走行性能が確保されていることがわかった。また、別に行った登坂路テストでも変速比率の幅が広くとれるためスムースな発進が体験できた。ボッシュによるとこうして走行性能を上げてもAERは最大4%向上(ゴルフより1クラス大きいDセグメント車両で達成)するという。

CVT4EVのボンネット内部。画面右側に減速機代わりのCVTが収まる。CVTのベルトを構成する金属コマのエレメント幅は、内燃機関(主に2.5lガソリンエンジン)向けCVTで普及している24mmとした
筆者撮影
CVT4EVのボンネット内部。画面右側に減速機代わりのCVTが収まる。CVTのベルトを構成する金属コマのエレメント幅は、内燃機関(主に2.5lガソリンエンジン)向けCVTで普及している24mmとした