竹中平蔵氏は非正規社員を増やす手助けをしたのか
そして今、正社員の最後の砦とされる退職金の廃止も現実味を帯びている。そもそも退職金制度は社員を長期に囲い込む目的でつくられたもの。勤続年数が長い人ほど金額も増える仕組みであり、終身雇用と一対をなしていた。
しかし、その終身雇用が揺らぎ、会社も必ずしも定年までいてもらいたいと思わなくなれば、制度の根拠を失う。2000年前後から、ついに⑤の退職金の減額に踏み切る企業が続出した。
厚生労働省の定年退職時退職金の調査(就労条件総合調査)によると、2003年の退職金は2499万円(大学卒)だったが、08年に2280万円、12年に1911万円と年々下がり続けている。
大手広告業の人事部長はこう語る。
「2008年のリーマンショック後の役員会議で退職金制度の廃止が議論になったことがある。一時は廃止して、今まで会社が積み立てた分を毎月の給与に上乗せしたほうが社員も喜ぶのではないかという意見が優勢になった。しかし顧問弁護士がそんなことをして社員から訴えられたら責任は持てないと反対され、結果的に退職金を減額することになった。しかし今でも社内では廃止論がくすぶっている」
正社員の特権がなぜ消えつつあるのか。
その元凶はマクロ的にはバブル経済崩壊後の経済不況で多くの経営者が社員を「人材(財)」ではなく「コスト」と見なすようになったことだ。
そして会社が生き残るために社員や人件費の削減に踏み込み、正社員の待遇を少しずつ削っていったのである。
ちなみに冒頭の竹中氏は小泉純一郎政権下の閣僚の一人として製造業の派遣労働を認める規制緩和も担ったとされる。
正社員の特権を剝奪するというより、非正規社員を増やす手助けをしたといえるかもしれないが、実は非正規を増大させた元凶は日経連(現経団連)にある。
日経連が1995年に提唱した「新時代の『日本的経営』」で非正規社員の活用を提唱して以来、正社員を人件費の安い非正規に置き換える動きが急速に拡大した。
小泉政権もそれを援護すべく労働者派遣法の対象業務を次々と拡大し、1999年には原則自由化に踏み切り、03年には製造業派遣を解禁した経緯がある。
竹中氏に責任があるとすれば、正社員の特権の剝奪ではなく、非正規社員の増大とそれに伴う格差の発生ということになるだろう。