「最初は同居人が自殺をしたことにしようと…」

それにしても、それまで人を殺したことのない白石が、2カ月という短期間で男女9人を殺害するとは。通常は「殺したい」という欲求があったとしても、実際に殺害するまでにはハードルがあるはずだ。躊躇はなかったのだろうか?

渋井哲也『ルポ 座間9人殺害事件 被害者はなぜ引き寄せられたのか』(光文社新書)
渋井哲也『ルポ 座間9人殺害事件 被害者はなぜ引き寄せられたのか』(光文社新書)

「それはかなりありますよ。それに殺害しても入手できたのは、結果として60万円(実際は約50万円)ほど。割に合いません。ただ、一度、売春(斡旋)で捕まっているので、再び同じスカウトはできないだろうと思いました。きちんとした仕事にも就けそうにないし、詐欺や窃盗のスキルもありません。だったら、ヒモになって女性に貢いでもらうしかないと思ったんです。そんな風に考えて、(いろんなリスクを)天秤にかけたんです。もちろん、殺害するのは勇気がいりました。1人目の殺害後は頭痛や吐き気がありました。しかし、1人目を殺害することで、それを乗り越えたんです」

9人を殺害したとなると、死刑になる可能性は高い。白石も薄々その可能性に気づいていただろう。発覚すれば、死刑。犯行に及んだ2カ月間、白石はそのことをどのように考えていたのだろうか。

「1人目を殺害した時点で、どのくらいの罪になるのかをネットで調べました。私がしたのは、強盗、強姦、殺人となるので、死刑を意識しました。最初は、死刑を回避することを考えたんです。殺人ではなく、同居人が自殺をしたことにして、遺棄しただけにしようと……」

その後もいくつか質問をする。まだまだ白石には聞きたいことがある。一方で、面会の時間は終わりが迫っているようだった。刑務官が時計に目を向け始める。最後に私は、「家族や被害者にこの時点で言いたいことはありますか?」と聞いた。

「家族には『ごめんなさい』かな? いや、違うな。『もう忘れてください』だな。(被害者の)遺族にも『忘れてください』と言いたいです」

ゆっくり、言葉を弱めに話す。すると、刑務官が「時間です」と会話を制止した。席を立つ白石。再び3本指を立てて、面会室のドアの向こうに消えた。

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