コロナ禍の生活変化は健康面に大きな影響を与えている。産業医の池井佑丞さんは「生活様式の変化により、食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足になっている人がいる。これらは生活習慣病のリスクを上げている」という――。
太った腹を気にする男性
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「コロナ太り」の影響が健診結果に出ている

新型コロナウイルスが世界的に広がりはじめてから2年以上が経過しました。感染対策としてのソーシャルディスタンスの確保やマスク着用・手指消毒の徹底、外出自粛、リモートワークの一般化など、生活習慣は大きく変化し、新しい生活様式として定着してきています。しかし、これらのような変化は心身に多くの影響ももたらしています。

国内で初めて7都府県に緊急事態宣言が発出された2020年4月には、新型コロナウイルスに関連した心の健康相談件数が急増したとの報告があります。感染やこれからの生活に対する不安、感染症対策へのストレスなどから心の不調を訴える人が増加しました(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症にかかる心の健康相談に関する精神保健福祉センターの対応状況」2020年)。

フィジカル面では、「コロナ太り」という言葉も多く聞かれるようになりました。外出自粛やリモートワークの実施により1日の運動量は減少した一方で、在宅時間に間食をしてしまったり、飲酒量が増えたりしている方が多いようです。

そこで懸念されるのが「生活習慣病リスク」の増加です。生活習慣病は運動や食事などの生活習慣によって引き起こされる疾患のことですので、コロナ禍ではそのリスクが高まっていると考えられます。実際に、ある健診結果にてコロナ禍の影響と考えられる異変が起きていることがわかりました。

「中性脂肪」「ALT」の数値が上昇していた

2020年5月に健康診断を受診した2万8869名のうち、2018、19年も受診していた4634名を対象として、コロナ禍が健診データにどのような影響を与えたかについての調査が行われました(新潟県労働衛生医学協会「長い自粛生活(ステイホーム)が健康診断データに及ぼす影響について」2020年)。健診項目ごとに平均値を算出し、前年度の平均値からの増加率を調べたところ、男女ともに血圧・血清脂質など多くの項目で高い値を示す結果となりました。特に増加率が大きいものは「中性脂肪」で男性6.8%、女性4.9%、「ALT(肝臓疾患の指標になる項目)」では男性7.5%、女性6.0%の増加が見られました。また、異常率についても腹囲や血圧など多くの項目で上昇していました。

影響が大きかった中性脂肪・ALTについてさらに詳しく見てみます。各年度の平均値を前年の平均値と比較した結果です。中性脂肪では、男性で2019年は微増(0.7mg/dLの増加)だったのに対し、2020年では大きく上昇(8.1mg/dLの増加)しています。女性のデータでも同様の傾向が見られており、前者は0.4mg/dLの増加だったのに対し後者は3.9mg/dLとやはり増加の幅は明らかに大きくなっています。ALTの結果も、男性で2019年は0.4U/Lの増加だったのに対し、2020年は2.0U/L、女性では2019年は0.1U/Lの増加に対して2020年には1.0U/Lの増加と、いずれも2020年の増加分が大きくなっています。