「低馬力」こそEVの実力が発揮される
モーター・ジャーナリスト達からは、「201馬力では物足りない」という声も聞こえてくる。だが、筆者の考えは全く逆で、むしろ、146馬力、168馬力くらいの比較的安価なラインにEVを投入する点に、VWの意気込みを感じている。
EVでは400~500馬力の車は珍しくないし、今後は1000馬力のEVも複数モデル発売される予定だ。
しかし、それは、EVの魅力をアピールするための行き過ぎた馬力競争であり、必要性に基づくものではない。
実際、146馬力、168馬力と言えば、このクラスのガソリン車としても普通の馬力であり、実用上は問題ないはずだ。
むしろこの程度の比較的低馬力の車でこそEVは実力を発揮する。モーターは低回転域で強いトルクを発揮するので、数字上は低馬力でもキビキビとした走りを実現できる。おそらく日常の足としては十分なはずだ。
自前のバッテリー生産工場も建てる本気ぶり
もちろん、低馬力の車は価格も安い。この比較的安く手に入る「普段着感覚のEV」でこそ、名車「ビートル」以来の、VWの強みが発揮されるだろう。
「ID.4」の出足は予想通り順調だ。2021年1月~5月までに2万6000台余りを売り上げ、世界の電動車販売ランキングで4位につけている。
6位には「ID.3」が入っているので、VWのEV戦略は的中したと言える。VWは今後一番小さい「ID.1」から最大型の「ID.9」までラインナップすると見られている。
VWの本気度はバッテリーへの注力ぶりからも感じ取れる。
VWは全固体電池を開発するアメリカのベンチャー、クアンタムスケープ(QS)に300億円を出資。経営幹部も、「30年までにVWグループの車両の80%にソリッドステートバッテリー(全固体電池)を使う予定」などと発表している。
加えて、2030年までにVW独自の6つのバッテリー生産用ギガファクトリーを建設するという。
「6工場合わせて年産240GWhを目指す」とのことだが、EV1台当たり100kWhずつ搭載したとしても240万台分、50kWh搭載なら480万台分にも相当する。
自前で電池工場を持ち、バッテリーの技術や生産規模を管理しようというVWの強い意気込みが感じられる。