リアルとそっくりだが切り離せるのがデジタルツイン
それに際しての基本的な潮流が2つあります。リアルに寄せるか、サイバー空間を充実させるかです。
まず、リアルに寄せる構想で出てくるのが、デジタルツインやミラーワールドです。
デジタルツインは、リアルを模倣したそっくりそのままの世界をサイバー空間内に作るものです。拙著では疑似現実という言葉も使いました。
そっくりそのままですが、リアルとは切り離されているので、何をしても構いません。極端な話、ここに核兵器を落としたらどうなるだろうかとか、パンデミックがひどいことになったときの予想をしようといった用途に使うこともできます。
研究目的であればとても面白い使い道ですが、一般消費者にとっては直接役に立つ部分は少ないかもしれません。
ミラーワールドはリアルと結びついて影響を及ぼす
そこで、ミラーワールドが出てきます。ミラーワールドはリアルを模倣したデジタルツインを作りますが、デジタルツインは切り離されておらず、リアルと結びついてリアルに影響を及ぼします。
デジタルツインの中で宿題をやったら、○×をつけた結果がリアルの教室で先生から返却されるかもしれませんし、先ほどの例のように、デジタルツインで仮想の洋服を作って着用したら、リアルの世界でもスマートグラスを通して、その服を実際に着ているように周囲の人に認知されるかもしれません。
そうすると、リアルで身につける服はどんなものでもよくなるでしょう(全裸でもいいかもしれませんが、スマートグラスを外した人に見られると危険です)。アパレルに従事する人は職を失ってしまうかもしれませんが、デジタルツインで仮想衣服をデザインする仕事は新しく創出されます。
これは、「職はなくならないが、別のスキルが必要になる」AI・データサイエンス時代の職能事情にもリンクする話です。
夢物語に聞こえるでしょうか。しかし、私たちは技術を使って相当なことを実現してきました。たとえば、地震波よりも電波のほうが速いことを使って、地震が揺れ始める前に警報を鳴らすシステムを私たちはすでに実装しています。慣れているから「なーんだ」と思ってしまうしくみですが、あれは一種の未来予知です。技術がそれを可能にしたのです。
ここで使っているデジタルツインやミラーワールドの定義ですら、まだ世界的に確定しているとは言えません。他の研究者や企業はまた別の定義を用いていることもあります。活気に満ちた混沌が支配する、新しい場所なのです。