巨大テクノロジー企業が「メタバース」への投資を加速している。中央大学の岡嶋裕史教授は「メタバースとは、リアルの世界から都合のよい部分だけを抽出したサイバー空間だ。リアルでの生活に違和感や閉塞感を持ったり、リアルとは別の世界で活躍したいと考えている潜在的な利用者は多数に上ると考えられる」という――。

※本稿は、岡嶋裕史『メタバースとは何か』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

VRヘッドセットを使って仮想空間を楽しんでいる少女
写真=iStock.com/scaliger
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融合しつつある「リアル」と「サイバー空間」

メタバースは新しい言葉でもあり、使う人によって意味が異なる言葉でもあります。

まず、現実と仮想の融合という大テーマがあります。「現実」と「仮想」は意味の広い言葉なので、拙著『メタバースとは何か』では「リアル」と「サイバー空間」を、導入部分と慣習的な用語は別として、極力使っています。

リアルは肉体を伴うこの現実のことです。サイバー空間はインターネットのことですが、インターネット上に展開されるウェブやSNSや各種システムなどを包含しています。

このリアルとサイバー空間がくっつきつつあるのは、納得していただけると思います。コンビニATMでは、スマホの操作だけでお金が引き出せますし、オタクにとっての鬼門であるアパレルショップでの試着はARで実際に着替えなくてもよくなりました! というか、もう服はいらなくなるかもしれません。スマートグラスを使えば、自分がどんな服を着ていても、別の服を着ているように表示することが可能です。

今のところ、それで視覚的に満たされるのは自分だけですが、データの標準化とシステムの相互運用性が高まれば、自分を見ている相手のスマートグラスにもその衣装が映し出されます。たとえ自分がステテコを着ていたり、全裸で歩いていてもです!

新しい世界のグランドデザインを描くのはだれか

このようにリアルとサイバー空間の融合が現実のものになってくると、そのグランドデザインをどう描くかが重要になってきます。現実のグランドデザインは実に長い時間をかけて形作られてきました。三権分立やマスコミによる権力の監視、都市設計、地域での暮らしのルールなどです。

リアルとサイバー空間が融合した新しい世界では、これらの多くが未着手で、今参入すれば人間が長い歴史の中で培ってきた構造を、ほとんど自分たちだけの手で作り上げ、そこで強い影響力を得たり、大きな利潤を獲得したりすることが可能です。

私たち一般利用者から見れば神にも等しい力を持っているあのフェイスブックですら、アップルが個人情報保護のルールを厳格化したことでその広告ビジネスに大打撃を受けました。それほど事態は流動的だと言えます。だから、テックジャイアントと呼ばれる企業を筆頭に多数のプレイヤが競って新しい世界で重要な地位を占めようと競争を繰り広げています。