辛口、甘口に加えて麻の「しびれ」も登場
家庭での人気を裏づけるように、大型小売店の店頭では「麻婆豆腐の素」がさまざまな味で陳列されている。
「最近は味のバリエーションも増えています。2017年ごろから『マー活』と呼ぶブームが起き、麻(マー)のしびれるような辛さを楽しむ消費者が増えました。当社でも花椒を効かせた本格的な味わいの『贅を味わう 麻婆豆腐の素』が売れています」
この1品となると定番が人気だ。最新の商品別ランキングは次のようになっている。
丸美屋と味の素以外にも人気商品が多い。大型小売店を視察した際は、理研ビタミン、ヤマムロ、新宿中村屋といったメーカーの商品が並んでいた。
甘口から激辛まで揃い、味のバリエーションが豊富なのも使いやすいのだろう。パスタソースにも通じるが、いつもと違う味を選べば目先の変わった料理として楽しめる。
だが半世紀前の発売時は、現在のような盛況は想像できなかった。
「婆ちゃんの豆腐、なんだいそりゃ?」
「発売当初『麻婆豆腐の素』は苦戦しました。主な理由は、当時なじみのない料理だったからです。発売翌年からテレビCMが開始されて関東地方では知名度が上がりましたが、豆腐にこだわりを持ち、濃い味を好まない西日本では売れなかったと聞いています」
当時の定価は120円で、現在と同じ3人前パックが2本入り。豆腐が1丁40円だったというが、麻婆豆腐はまだ町の中華料理店にもない、未知のメニューだった。
「婆ちゃんの豆腐? なんだいそりゃ?」という声もあったという。
ただし、家庭の食卓でも「簡単便利」を求める時代が来ていた。市販のレトルトカレーは「ボンカレー」(大塚食品、1968年)が最初で、即席麺は「チキンラーメン」(日清食品、1958年)によって広まり、60年代後半には現在もロングセラーの袋麺ブランドが誕生した。ボンカレーの3年後に誕生したのが「麻婆豆腐の素」だ。
当時の開発スタッフが首都圏の団地を1戸ずつ訪問して無料サンプルを手渡すローラー作戦や小売店への地道な営業活動を行った。転機は2年後の「オイルショック」だった。