「日本で最も有名な17歳」にメディアが大騒ぎ
東大前の路上で17歳の少年が、受験生の高校生ら3人を次々と刺した事件を受けて、「少年A」の人となりに迫るような報道が相次いだ。
東大刺傷事件 逮捕の17歳少年が「勉強」と題しつづった卒業文集と意外な家庭環境(日刊ゲンダイ 1月18日)
東大志望、揺れた進路 受験生刺傷の高2、医学部から文系転向を相談(中日新聞 1月20日)
東大前刺傷事件 勉強の場に自らを置き続けた逮捕少年と「同級生の死」(NEWSポストセブン 1月20日)
これを受け、瞬間風速的ではあるが、少年Aは「日本で最も有名な17歳」になった。もちろん、少年法があるので顔や名前は知られていないが、普段はどんな生徒で、どんな考えを周囲に語っていたのか事細かに紹介され、その人物像が国民の頭に刷り込まれたからだ。
犯人を有名人にする報道が「模倣犯」を生む
さらに、ワイドショーでは専門家やらコメンテーターの皆さんが、どんなことに悩み、コロナ禍のなかで孤独を感じていたのではないか、などと好き勝手な憶測をしたことが知名度をさらに上げている。メディアの議論に触発された人々の間で「俺の考える少年A」が語られているのだ。皆さんも家庭、職場、そして友人との間で、こんな会話をした覚えはないか。
「東大以外でも医者になれるだろ。勉強できるのに、そういうところが頭が悪いよなあ」
「ニュースでやってたけど、教師に文系転向を相談したって話じゃん。医師にならなきゃって何かに追いつめられてたんじゃない?」
もはや「祭り」と言っていいほどの過熱ぶりだが、実はこのような状況はかなりまずい。メディアは煽った側なので、言いづらい部分があるが、無差別テロや大量殺傷事件が発生した場合、今回の事件のように、実犯人の素顔や思考を事細かに報じて「有名人」にしてしまうと、「模倣犯」を次々と生むことがわかってきているのだ。
そのため海外では、この手の事件が起きた際、「事件を報じても、犯人を有名にしない」という呼びかけも起きている。しかし、日本のメディアは逆張りだと言わんばかりに、京王線刺傷事件、大阪ビル放火事件、そして今回の事件まで一貫として「凶悪犯の素顔と人となりを全国のお茶の間にお届け」というスタンスを継続している。見方によっては、日本のメディアは、続発している無差別襲撃事件の「幇助」をしているようなものだ。