「日本で最も有名な17歳」にメディアが大騒ぎ

東大前の路上で17歳の少年が、受験生の高校生ら3人を次々と刺した事件を受けて、「少年A」の人となりに迫るような報道が相次いだ。

大学入学共通テストを受けに来ていた受験生が切り付けられた現場周辺を調べる捜査関係者=2022年1月15日午前、東京都文京区
写真=時事通信フォト
大学入学共通テストを受けに来ていた受験生が切り付けられた現場周辺を調べる捜査関係者=2022年1月15日午前、東京都文京区

これを受け、瞬間風速的ではあるが、少年Aは「日本で最も有名な17歳」になった。もちろん、少年法があるので顔や名前は知られていないが、普段はどんな生徒で、どんな考えを周囲に語っていたのか事細かに紹介され、その人物像が国民の頭に刷り込まれたからだ。

犯人を有名人にする報道が「模倣犯」を生む

さらに、ワイドショーでは専門家やらコメンテーターの皆さんが、どんなことに悩み、コロナ禍のなかで孤独を感じていたのではないか、などと好き勝手な憶測をしたことが知名度をさらに上げている。メディアの議論に触発された人々の間で「俺の考える少年A」が語られているのだ。皆さんも家庭、職場、そして友人との間で、こんな会話をした覚えはないか。

「東大以外でも医者になれるだろ。勉強できるのに、そういうところが頭が悪いよなあ」
「ニュースでやってたけど、教師に文系転向を相談したって話じゃん。医師にならなきゃって何かに追いつめられてたんじゃない?」

もはや「祭り」と言っていいほどの過熱ぶりだが、実はこのような状況はかなりまずい。メディアは煽った側なので、言いづらい部分があるが、無差別テロや大量殺傷事件が発生した場合、今回の事件のように、実犯人の素顔や思考を事細かに報じて「有名人」にしてしまうと、「模倣犯」を次々と生むことがわかってきているのだ。

そのため海外では、この手の事件が起きた際、「事件を報じても、犯人を有名にしない」という呼びかけも起きている。しかし、日本のメディアは逆張りだと言わんばかりに、京王線刺傷事件、大阪ビル放火事件、そして今回の事件まで一貫として「凶悪犯の素顔と人となりを全国のお茶の間にお届け」というスタンスを継続している。見方によっては、日本のメディアは、続発している無差別襲撃事件の「幇助」をしているようなものだ。