「物事は開かれるべきだ」という認識
スープの会とのやり取りもあってか、この都庁下でぬくぬくと過ごしている自分になんだか急に冷めてしまった。しかし、それが本当のホームレスたちにとっては「安住」という最も重要な要素であり、この場所から移動しない理由なのだろう。
それから数日経った八月四日の朝、私は黒綿棒にお礼と別れを告げ、自転車で上野へ向かうことにした。黒綿棒は最後、私にこう伝えた。
「君と僕は気質が同じだと感じている。お互いに物事は開かれるべきだという認識があるだろう。ホームレス社会と一般社会の風通しに対する考え方が近いので、ここまで気軽に話せる関係になったのだと思う」
黒綿棒、私もまったく同意見だ。社会に背くように塞ぎ込むホームレスであれば、私はあまりコミュニケーションを取ろうとしないだろう。もし将来、自分が本当のホームレスになることがあるとすれば、この考えのもと路上生活を送りたいと思っている。
上野に着いて一段落したら、まずはこの約二週間一度も洗わずに酷使した、雨に濡れたときの犬の臭いがするタオルを石鹸で洗うことにしよう。黒綿棒にそのことを話すと「僕のタオルは犬を通り越してカブトムシの臭いになっている」と笑っていた。