2021年夏、ライターの國友公司さんは2カ月間、都内でホームレスとして過ごした。共に生活する人々を見つめ、著書『ルポ 路上生活』(KADOKAWA)にまとめた。路上生活では、多くのホームレスから「お前みたいによく話すやつは珍しいよ」と言われた。その背景には路上生活における「暗黙のルール」があった――。(第3回)

都内のホームレスが飯に困ることはほぼない

「正直、今300円を手に入れたら、僕は飯ではなく間違いなく冷たい飲み物とアイスクリームを買う」

私が都庁下の路上で寝ていたとき、となりで一緒に暮らしていたホームレスの黒綿棒(筆者が付けたあだ名)が口にした言葉である。ホームレス生活を始める前にこの言葉を聞いたとしたら、私は心底驚いただろう。しかし今は「そりゃそうだ、飯なんて誰が買うか」とまで思う。

新宿、渋谷、池袋、上野、山谷など都内のいくつかの地域では炊き出しが連日のように行われている。黒綿棒が作成した「炊き出し最強マップ」なるものを見てみると、東京23区東部では週に32回、西部に至っては週に37回の炊き出しの予定が記されていた。コロナ禍により休止または中止となっているものもあり、そのすべてが開催されているわけではないが、逆にコロナ禍により炊き出しの回数を増やした団体もあれば、新しく炊き出しを始めた団体もある。

さらに、「炊き出し最強マップ」には記載されていないゲリラ的な炊き出しもあれば、不憫に思った一般人が食料を差し入れしてくれることも想像以上に多い。食料が余ってしまったのでほかのホームレスに分けようとするも、「俺だって腹いっぱいなんだよ」と断られてしまうことが何度もあった。都内においては、ホームレスが飯に困るなんてことはほぼないと言っても過言ではないのだ。

黒綿棒が作成した「炊き出し最強マップ」
筆者撮影
黒綿棒が作成した「炊き出し最強マップ」