監視カメラを置いて教師を監視する

現在、南部や中西部の白人が圧倒的に多い学校では「白人という人種そのものが差別的だというのか」「罪悪感を持てというのか」「誇るべきアメリカの歴史を歪ませて教えるな」といった親からの苦情が殺到している。

理論を支持した教育委員会委員の罷免運動が保護者から起こっているほか、理論に基づいて教員が教えないように監視カメラをつけることを呼びかけている。まるでモンスターペアレントの難癖にすら感じる。

とはいえ、奴隷制も南北戦争も教えなければ歴史教育は成立しない。「白人差別にならないための配慮」という複雑な教え方に教育の現場は戸惑っている。

「モンスターペアレントの難癖」を利用する共和党

現在、CRTに基づく教育を禁止したのは8州。多くが共和党の強い州だ。「教育の場の自由を守る」という合言葉で、この理論をやり玉に挙げており、今年はさらに禁止の動きが進むのは確実だ。

共和党がこの理論を政治利用するのは保守派が強い州だけではない。共和党支持と民主党支持が拮抗きっこうする激戦州ではCRTを叩くことで保守派の動員増が見込める。

2015年11月28日、ドナルド・トランプを支持するプラカードを持つ白人高齢者たち
写真=iStock.com/csfotoimages
※写真はイメージです

実際、昨年11月に行われたバージニア州知事選では、州全体でCRTが争点となった。

共和党候補を僅差の勝利に導いた団体の正体

そこでは「批判的人種理論に反対する親の会(Parents Against Critical Race Theory)」という団体が活躍した。

この組織はちょうど連邦政府機関でのCRTに基づく研修を禁じた上述のトランプ前大統領の大統領令を発令した2020年9月に発足した。