「民主党は学校で批判的人種理論を広めている」

バイデン政権はこれまでコロナ対策とインフラ投資という2つの公約を実現させたが、やはり方程式に当てはまるというのが大方の予想だ。

その上で、共和党側が進めている戦術いかんでは中間選挙での“大敗”が予想されている。

それは、「民主党は学校で批判的人種理論を広めている」というものだ。

「批判的人種理論(Critical Race Theory=CRT)」はアメリカ人にとっても、ついこの間までは聞きなれなかった言葉だ。というのも、学術的な場で人種を議論する際の概念のようなものであり、筆者もアメリカの大学院で学んだ際に、ゼミの議論で頻繁に出てきた。

この理論を非常に簡単にいえば「人種差別というのは個人の心の問題ではなく、法律や社会的な制度、政策が生み出す」ということである。

実際、その通りだ。黒人差別があったのは、人をモノとして売買した奴隷制度の存在が大きい。南北戦争後の奴隷制廃止以後も南部諸州では長年、各種の隔離政策が続いた。白人の黒人の結婚禁止から始まり、「白人専用」の水飲み場やトイレを作ることで黒人蔑視がさらに深刻になっていった。

女性の地位についての議論とも同じだ。「男性優位な社会の中で作られた諸制度が女性を苦しめている」という観点から社会を眺めればさまざまな問題点が見えてくる。

トランプ前大統領が理論を社会問題化した

かつて私が経験したように、この理論は、大学院で議論するための題材のようなものだった。しかし、人種平等に社会が敏感になっている中で、大学院のみならず小中高の教員の研修で引用されることが増えている。

ただ、一部の保守派が「アメリカ社会そのものが差別的であるかのような理論を教師が学んでいる」「黒人に過度に配慮をし、すべての問題を白人の責任にしている」「白人への逆差別だ」と批判を始めたのだ。激しい政治的分極化の中、今のアメリカは何でも政治問題化する。

共和党も2020年ごろから、ことあるごとに批判的人種理論(CRT)を攻撃し、理論に基づく研修などを中止させる運動を広げていった。保守層の怒りを選挙の動員に使う彼らにとって、反ワクチン運動、反マスク運動に次ぐ、新たな武器と考えたからだ。

2020年9月、トランプ前大統領が、CRTの問題を取り上げた保守系のフォックスニュースを視聴。同月22日には、CRTが「新たな分断を生む」と名指し、連邦政府機関内でのこの理論に基づく研修を禁止する大統領令を出した。

2021年に入ってバイデン大統領にはトランプによる大統領令を取りやめているが、既に全米にCRT批判が飛び火した後だった。