現役スポーツ選手への授与があからさまに多くなった

最近の受賞者の顔ぶれからも、スポーツ・ウォッシングをうかがうことができる。

2011年に、FIFA女子ワールドカップドイツ2011日本女子代表チーム以降に受賞した8人のうち、吉田沙保里氏、長嶋茂雄氏、松井秀喜氏、伊調馨氏、羽生結弦選手の実に5人がスポーツ選手である。残りの3人も、本来は神事でありながらいまや限りなくスポーツに近づきつつある大相撲の故・納谷幸喜氏(元大鵬関)と、チェスに代表されるマインドスポーツに含めてもおかしくない将棋の羽生善治氏、囲碁の井山裕太氏で、これらを広義におけるスポーツ選手と捉えれば全員がそうなる。

つまり直近10年間の国民栄誉賞はすべてスポーツ選手およびチームが受賞している。

人気の絶頂を狙い撃ちしている近年の国民栄誉賞

さらに見逃せないのは、最近になって現役選手に授与を打診する傾向である。

人生の前半に引退時期が訪れるスポーツだから、過去を振り返っても現役時代の受賞は珍しくない。現に王貞治氏、山下泰裕氏、故・衣笠祥雄氏、吉田沙保里氏、伊調馨氏などが現役時に受賞している。だが、いずれも選手時代の晩年で、累積本塁打数や連続出場記録、複数大会にまたがる記録など、現役時代を総括した功績をたたえられている。スポーツ以外の受賞者を含む全体を見渡しても、現役を退いたあとか死去してからの授与が大半を占める。

つまりこれまでの国民栄誉賞は、選手時代や人生そのものを通じた長いスパンでの功績をたたえる性格を備えていた。それが近年では、羽生結弦選手や井山裕太氏など、道半ばでまだ若い選手にその授与を打診する傾向にある。過去に3度、受賞を断っているイチロー氏もそうであった。

スポーツ選手が最も輝くのは脂の乗った現役時代である。それなりに経験を積んだ若々しい肉体が発揮するパフォーマンスに人々は熱狂し、世間の注目はピークに達する。だが引退が近づくにつれてパフォーマンスは下降をたどり、それとともに人気も陰る。

引退してからも人気を博する選手はいるが、現役時のそれと比べればいささか沈静化するのは否めない。ましてや没後となればそうである。現在進行中の沸騰するような人気はやはり現役時代のみである。

これらの傾向から、近年の国民栄誉賞はスポーツの親しみやすさにつけこみ、その人気が絶頂を極める現役時期を狙って受賞者が決められていると推測しても差し支えないだろう。