福岡ソフトバンクホークスの倉野信次コーチは、地味な投手を次々と豪腕に変身させた手腕から、「魔改造」とも呼ばれている。一体どんな指導をしているのか。倉野コーチは「選手時代に受けたコーチングを反面教師にしている。最大のポイントは短所を直さないということだろう」という――。

※本稿は、倉野信次『魔改造はなぜ成功するのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

球を投げようとするピッチャー
写真=iStock.com/Dmytro Aksonov
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下半身と体幹を徹底的に鍛える理由

私の指導は「魔改造」と呼ばれることがあります。知名度が高いわけではない育成選手や未熟な選手を急激に成長させることを指すようで、そうやって評価していただけることは大変ありがたいと感じています。しかし、特別な魔法があるわけではなく、やっていることはシンプルで基本的なことばかりです。

投手のパフォーマンスは、身体を鍛えることで一定以上は必ず上がるものなので、まず下半身と体幹を徹底的に鍛えさせます。

球速を上げたいのなら腕を強く振らなければなりませんし、そのためには下半身を安定させる必要があります。バランスボールのような不安定な足場では強く腕を振ることができないのと同じで、下半身が弱いと速い球は投げられません。下半身をブレさせないことと、その下半身と上半身とを繫ぐ体幹を鍛えて上半身にしっかりと力を伝えること。これらの基本ができるようになれば、球速は一定程度必ず伸びます。

今のチームで言えば、アメリカのアマチュアから入団したカーター・スチュワートが良い例です。彼は、18歳の時にアメリカのドラフトで1巡目指名されながら入団はせず、その1年後にホークスと契約しました。アメリカ人選手では初めてのケースで、逸材として大いに期待されての入団です。

しかし当初見た時は正直、本当にアメリカのドラフト1位選手なのかと疑ってしまうほどでした。体力が無く、しばらく下半身強化に取り組ませても踏ん張りが利かず、球を投げさせてもスピードは目を見張るほどではありません。

ただし、投手として優位な体格であり、腕の振りも柔らかいという、入団当初の千賀のような状態だったので、同じように筋力強化をすれば伸びるだろうと確信が持てました。

今年には球速も平均で10kmほど上がって150kmを軽く超え、一軍でも登板できる選手に成長しました。これも、2年間、下半身や体幹を徹底して鍛えさせた成果が出たからだと思います。

アマチュアの練習量が絶対的に減っている現在では、高卒だけではなく大卒、社会人出身であっても、基礎体力が不十分な選手が多くなりました。鍛えられていない部分が非常に多いので、下半身と体幹のトレーニングを徹底的に行うだけで、すぐに効果が出ることが多いのです。

ただ、小学生はもとより、中高生の場合は負荷の掛け方に注意が必要です。まだ骨が完全に出来上がっておらず、身体が成長途中だからです。その状態で強い負荷が掛かると、疲労骨折などの怪我に繫がってしまうこともあります。

どれぐらいの負荷ならいいのかは個人差も大きいので、自分一人の判断でやりすぎないこと、違和感を覚えたら負荷を減らすことなどに注意して、トレーニングすることが必要です。