しかし、単に増山さんに先見の明があったからだけではない。増山さんは「人は何のために生きているのか」「いかに綺麗に生きるか」に関心を持ち続けてきた。いまも毎晩、聖書を紐解きながら人としてのありようを学んでいる。そして、あるときふと「日本人としての生き方とは何か」という疑問が浮かび、手にしたものが『武士道』であったのだ。

「男性は国や主君のため、女性は夫や子供のために尽くすことが示されているように思えます。しかし、突き詰めて考えると、どんな困難な状況に陥っても、我慢強く、正しき道である『義』を貫き、人に対して『仁』を持って接することが、結局は自分を成長させているんだということを教えてくれているのです。また、先人の立ち居振る舞いを省みながら、何が正しいのか、恥じない生き方なのかを学んでいく。それが武士道なのです」

そう語る増山さんだからこそ、まだ派遣が珍しい時代であっても、事業の立ち上げに邁進できたのだろう。また「女性がスキルを身につけてキャリアアップしていくのには派遣はいいシステムです。そして、自ら職場を選択できる力を備えた自律した女性を育てていくことで適材適所を実現することは、社会への貢献につながっていくはず」という増山さん独自の「義」が打ち立てられ、精神的な支柱になったことも忘れてはならない。

いま、私たちの周りには、デフレ、企業倒産、賃金カットなど意気消沈するような話題ばかりが渦巻いている。激変する環境のなかで迷ったときに自分を見つめ直すためにも、般若心経や『武士道』などの古典に人としての立ち居振る舞い方を学び、苦境を打破して一歩前に進む力をつけていくべきではないか。

※すべて雑誌掲載当時

(坂井 和=撮影)